▼ おまけ「俺を飼ってみるか?」
昼休み、保健室。
コンコン
「誰だ?」
「私です。入ってもいいですか?」
「ああ、リアラか。いいぞ」
「失礼します」
髭の許可を得て、声の持ち主―リアラが入ってくる。手には食事の乗ったトレーを持っている。
「お昼ご飯、持ってきましたよ」
「ああ、ありがとな」
自分の代わりに昼食を取ってきたリアラに、髭は礼を述べる。
事務机に昼食を置くと、髭を見やり、リアラはため息をつく。
「それにしても、まさか先生達がこうなっちゃうなんて…」
「ああ…。おかげで休み時間ごとにこの姿を見たがる女子が来て、困ってる」
そう言ってうんざりしたようにため息を吐く髭。感情に合わせるかのように頭の上にある彼の髪色と同じ色をした猫耳がぺたりと伏せられるのを見て、リアラは苦笑する。
「まあ、若にネロ、先生まで動物耳がついたとなれば、見たい子は多いんじゃないですか?」
「興味があるのはわかるが、こうもずっと見られてたんじゃ気が滅入る」
くすくすと笑うと、リアラは髭の向かいにあったいすに座る。
「少しは私の気持ち、わかってもらえましたか?」
「ああ、もう二度とごめんだ」
はぁ、とため息をつき、昼食のオムライスに手をつけた髭を見つめ、リアラは微笑みながら告げる。
「でも、かわいいと思いますよ」
「かわいい?俺が?」
「ええ。かわいくて、飼っちゃいたくなります」
リアラの言葉に髭は目を瞬かせると、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「飼ってみるか?俺はお前なら構わないぜ?」
「私が飼い主ですか?」
「ああ」
「私より大きな猫さんですね」
「飼い主であるお姫様を守る一途な猫だ」
「悪戯好きでもありますけどね」
「そこは否定しない」
お互いにくすくすと笑みを漏らし、穏やかな空気が流れる。
ふと、リアラはあることを思いつき、いすから立ち上がった。
「リアラ?」
「私が飼い主ってことは、悪戯しても言うこと聞いてくれますよね?」
不思議そうな顔をする髭にリアラは近づくと、彼の肩に手を置き、頭の上の猫耳へと顔を近づける。
ぱくっ
「っ!?」
ふいに耳に触れた柔らかな感触に、髭はびくりと肩を震わせる。
思わず耳を押さえ、髭はリアラを見上げた。
「お前、今…!」
「ふふ、昨日のお返しです」
悪戯っぽく笑うリアラに、やがて髭は観念したように苦笑した。
「…お前にはかなわないな」
「今日だけですよ」
いつもなら私の方がかないません、とリアラは言う。
髭は椅子にもたれかかり、言う。
「まあ、飼われてもいいって言ったのは俺だしな。好きにしろよ」
「ふふ、もうこれ以上悪戯はしませんよ」
そう言い、かわいがるように髭の猫耳を撫でるリアラ。
リアラの撫でる手が気持ちよく、髭は思わず目を細める。
(これで本当の猫になってたら、喉を鳴らしてただろうな)
自分の考えに苦笑する髭に、リアラは微笑みながら話しかけた。
「その姿じゃ買い物に行けないでしょう?今日は私がご飯、作ってあげます」
「…いいのか?」
「ええ」
何が食べたいですか?と首を傾げて尋ねてくるリアラに、髭はしばらく悩んだ後、呟いた。
「…パスタがいいな」
「パスタですか。いいですね」
ミートソースにしようかな、カルボナーラもいいなあ、とさっそく夕食を考え始めたリアラに、髭がぎゅっと抱きつく。
ぱちぱちと目を瞬かせた後、リアラは不思議そうに首を傾げる。
「先生?」
「……」
「…ご飯、冷めちゃいますよ?」
「…もうしばらくこのままがいい」
ぼそりと呟かれた言葉に、リアラは再び目を瞬かせると、ふふっと笑みを溢し、髭の頭を撫でる。
「甘えん坊な猫さんですね」
まあ、たまにはこんな時があってもいいかな、と心の中で思いながら、リアラは珍しく甘える恋人の頭を撫で続けた。