コラボ小説 | ナノ
 おまけ「次の日、逆襲…?」

翌朝。いつもより早い時間に学校に来た髭、若、ネロの三人は化学室の前で顔を突き合わせていた。理由は、リアラ、紅、キリエ、三人の獣耳と尻尾が未だに消えていない為だ。


「さっさと解毒薬を作らせないとな」


髭の言葉にネロは不安を吐露する。


「解毒薬なんてすぐに作れるモンなのか?」

「昨日、二代目に相当シバかれたらしいからな…流石のアゴも死ぬ気で作るんじゃねーの」


二代目の怒る様を想像したのか、苦い表情で若が応えた。


「俺は別に消えるまで放っとけばいいと思う」


ネロが言うと、髭は苦笑を洩らし若は首を振る。


「リアラが恥ずかしがって泣いてたんだ。早く戻してやらないと」

「早く戻ってくんねーと、俺が我慢できねえし」


ちなみに今朝、紅は若の姿を認識した瞬間、正面から華麗なドロップキックを喰らわせた。更に鳩尾に数発重い拳を受け、何度も謝罪を繰り返して漸く紅に昨日の行いを許してもらえたのだった。


「それにな…」


真面目な顔をして続ける髭の言葉に、若者二人は戦慄する。


「あの姿で彼シャツとかされてみろ。耐えられねぇぞ」

「………」


彼シャツ。二人は自分の想い人の姿を想像し、ごくりと唾を飲む。


「「否定できねえ…」」


絶対に耐えられる訳が無い。想像しただけでも襲い来る男の本能的な何かを、若もネロも必死で押し殺した。


「…決まりだな」


頷き合った三人は、アグナスが居る化学室へ勢い良く乗り込んだのだった。

***

どうしてこうなった。
今の惨状はこの言葉に尽きる。アグナスの元へ解毒薬の催促に乗り込んだ筈の三人は、変わり果てた姿で帰ってきた。髭と別れた若とネロは部室で待つ紅とキリエの元へ向かった。彼女たちは人目を憚って早めに登校したものの、教室には居づらいという理由で軽音部の部室で待っている。


「ただいま」

「若!あたしたち元に戻っ…」


部室のドアを開けば紅が駆け寄って来る。その姿はいつも通りに戻っており、キリエも同様だった。どうやら若たちが化学室へ向かった直後に獣耳と尻尾はあっさり消えたらしい。話し掛けようとしていた紅は若の姿を捉えるとピタリと動きを止めた。


「…似合ってんだろ?」


半ばヤケになっている若は自嘲気味に笑う。彼の頭上にはぴんと立った犬の耳が付いていて、髪色と同じ白銀の毛に覆われた耳と尻尾は既視感を与えた。


「…あのアゴ、また作ってたの?」


紅の質問にうんざりした様子で頷いた若は、ただ、と続ける。


「二代目のオシオキにも折れなかったヤツだからな…。おっさんと俺とネロでちょっとキツめに痛めつけておいた」


流石にもうやんねーだろ。呟いた若はニヤリと笑みを浮かべた。…怖いから詳しくは聞かないでおこう。


「…て、事はもしかしておっさんとネロも…?」

「ん?ああ…おいネロ!いい加減入って来い!」


若が振り返って廊下に向かって呼びかけると、そろそろとネロが顔を出した。パーカーのフードで頭は隠れているが、彼の顔色は青くかなり参っているらしかった。


「こんなモノ…誰にも見せらんねえ…!」


がっちりとフードを押さえ震える声で呟くネロ。好奇心を擽られた紅は


「…見せて?」


満面の笑みで言う。


「絶っっっ対、に!嫌だ!」


断固拒否するネロへ、ならばと背後を返り見た。


「キリエも見たいよね!?」

「え?」

「お、おい…っ」


きょとん、とするキリエにネロが気を取られている隙に、素早い動きで紅はネロのフードを外す。彼の頭上に現れたのは、少し毛足の長い白銀の狼耳だった。


「っ!卑怯だぞ!」


咄嗟に両手で耳を覆い隠すが、紅もキリエもしっかりと可愛らしい耳を見てしまった。


「…ネロ、獣耳似合うね…」


からかおうと思っていたのに普通に似合っているものだから、つい素直な感想を述べると彼はふて腐れてフードをかぶり直してしまう。


「うっせ。そんな事言われても嬉しくねえ」


ネロはむすっとした顔で踵を返し部室を出て行った。慌ててキリエが後を追う。


「あぁ…、行っちゃった」

「なあ、俺はかまってくんねえの?」


紅の顔を覗き込んだ若は、昨日の一件もあって自分からは触れないようにしていた。けれどやっぱり構って欲しくて、ついつい彼女にちょっかいを出してしまう。


「だって若はすぐ図に乗るし」


言いつつもチラリと耳に視線を向けた紅は、屈み込んだ事で近くなった若の耳へ手を伸ばした。ふさふさの耳を揉むように撫で、手触りの良さに顔が綻ぶ。


「んー」

「ふふ、ふわふわで気持ちいい」

「くすぐったいな、これ」

「…昨日の若よりは控えめでしょ」


半眼で睨む紅に対して、若は笑みを返した。


「何なら倍返しにしてくれてイイぜ?」

「じゃあ遠慮なく」


彼の色っぽい笑みに悔しくなって、紅は撫でていた耳を思いっきり引っ張ってやる。


「いっ、ででででぇえ!!?」


ぐいぐい引っ張られあまりの痛みに涙を浮かべた若に勝ち誇った笑みを向け、紅は吐き捨てるように告げた。


「ざまーみろ!倍返しだもんねー」


べーっ!と舌を出した彼女は、楽しそうに声を上げて笑う。これで若も今日一日くらいは大人しくしてるだろう。痛みに耳を押さえしゃがみ込んだ若の頭を一度だけ優しく撫で、手を引いて立ち上がらせた。


「ほら、さっさと教室行くよ!」

「くそー…覚えてろよ…」


文句を言いつつ、若も笑みを返して。
二人は仲良く手を繋いで、自分たちの教室へ駆け出したのだった。