フォルトゥナの町から離れた場所に位置する霊峰・ラーミナ。
冬になると雪が積もり、視界が白く染まるこの場所の頂上には、二千年前にこの地を治めていたとされる伝説の魔剣士スパーダが住んでいたとされるフォルトゥナ城がそびえている。
今は風が強く吹き、雪で視界が聞かないその城の足元に、一つの影がいた。
城の門の前に鎮座している一つの影は城を見上げると、辛そうに顔を歪めた。


(また、弱くなっている…)


影が感じとっていたのは、一つの気配。
ここへ訪れ、その気配を探るたびに、その気配は弱くなっている。


(このままでは…)


このままの状態が続くと起こるであろう最悪の結果が頭をよぎり、それを振り払うかのように影は頭を振る。


(自分がこんな状態でどうする…。あの子の方が苦しんでいるというのに …)


脳裏に浮かんだ大切な者の姿に唇を噛みしめ、影は目を開く。


(だが、もうすぐあの子を助けられる…。やっと、見つけた…)


影はある一人の男の姿を思い浮かべる。
一ヶ月前にこのフォルトゥナの地にやって来て、教団騎士の青年と共に愚かな教団教皇の神の計画を止めた男。
赤いコートをなびかせ、大剣を背負った男。
その男こそが、影の探していた人物だった。


(あいつの居場所はわかった…。後は、私の力の一部をそこに送るだけだ)


影はす、と目を閉じる。影の身体から静かに青いオーラが放たれたかと思うと、そのオーラは小さな光の球となり、ある方角を目がけて飛び立っていった。


(これでいい…)


影は心の中で小さく頷くと、再び城を見上げた。 その時、今まで強く吹いていた風が一瞬、その力を弱めた。いくらか視界がよくなった白い世界に、その影の姿が浮かぶ。人より遥かに大きな体躯に、水色の光を纏った白い毛並み、普通の動物とは違う気配を持った狼だった。


(もうすぐ、もうすぐだ…)


影―狼は、城を見つめ、静かに口を開いた。


「…リアラ…」



***
2012.12.14




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