「…あの、ダンテさん」
「何だ?」
夜、辺りが闇に包まれ、ひっそりと静まり返った中。孤児院の敷地内の庭でリアラとダンテは木の影で息を潜めて孤児院の様子を窺っていた。
ふいに名を呼んだリアラに、ダンテは隣にいた彼女を見やる。
「私が依頼主と話している時に一言も言わなかったのは、私の仕事の様子を見てたからですか?」
リアラは自分と依頼主との話に一言も口を挟まなかったダンテが気になっていた。代わりに何だか、様子を見られていた気がする。
ダンテは頷く。
「ああ。お前が仕事をする時は、いつもどうしてるのか知りたくてな。だから、あえて口を挟まなかった」
「…何か、気になることがありましたか?」
不安そうに返すリアラに苦笑し、ダンテは彼女の頭をくしゃりと撫でる。
「いや、ちゃんとやってたさ。俺なんかよりしっかりしてる」
そう言うと、ほっとしたようにリアラは笑みを浮かべる。
が、次の瞬間には険しい表情になった。
「…来たな」
「…ええ」
何が、なんて言わなくてもわかる。ダンテと同じように、リアラは庭の向こうを見た。
ガサッ、ガサガサ…
木々の茂みから姿を現したのは、女性の顔に蜘蛛の身体を持つ悪魔だった。悪魔は辺りを警戒ながら、孤児院へ近寄る。
「アルケニー、ですか」
「ああ」
悪魔に気づかれないようにリアラとダンテは言葉を交わす。
アルケニーは孤児院の前に立つと、じっ、と二階の窓を見つめる。すると、二階の窓が開き、一人の少女が姿を現した。
「何だ、物音にでも気づいたのか?」
「よく見てください、ダンテさん。…あの子、様子がおかしい」
窓際の少女を見つめ、リアラは呟く。
物音に気づいて窓を開けたのなら、悪魔を見て悲鳴を上げてもおかしくないはずだが、その少女は下にいる悪魔を見ても悲鳴を上げず、それどころか黙ったまま悪魔を見つめている。
少女を視界に捉えると、アルケニーは糸を吐いて少女を絡めとり、二階から引きずり下ろす。少女を上手く背に乗せると再び糸を吐いて二階の窓を閉め、孤児院に背を向けると、茂みへと姿を消した。
「…知恵がついてるみたいですね」
「だな。わざわざあそこまでするとは、ご苦労なこった」
木陰から姿を現すと、リアラとダンテはアルケニーの去った茂みを見つめる。
「さて、じゃあ行くか」
「はい」
お互いに頷くと、二人は茂みの中に入っていった。