一方、スラム街のダンテの事務所では。
「相変わらず偏った食生活ね」
「ほっとけ」
ピザを一口食べると、ダンテは顔をしかめて目の前にいる女を見る。
白いスーツに身を包み、黒いサングラスで目元を隠している彼女は、その背に巨大なランチャーを担いでいる。
長い付き合いだが、毎回借金を取り立てに来て悩まされるので、ダンテの悩みの種の一つだった。
「…で、何の用だ、レディ。借金取り立てに来たなら、今度にしてくれ」
「違うわ、仕事を持ってきたのよ」
そう言うと、女―レディは腕を組む。
「仕事?勘弁してくれ、お前の仕事はろくなもんじゃない」
「失礼ね、今回のはまともよ。しかも、あんたが興味引きそうな情報付き」
「情報?」
「ええ」
頷き、レディは仕事の内容を説明する。
「五日前に、依頼の電話があってね。女性からの依頼だったんだけど、彼女はある街で孤児院を経営してるんですって。で、一ヶ月前からその孤児院に暮らす子供が一人ずついなくなってるらしいわ。いつの間にかいなくなってるから、悪魔の仕業じゃないかと思ってるみたい。最初はその調査だったんだけど…」
「けど?」
「一昨日電話があって、前日にまた一人いなくなったんですって。もうこれは悪魔の仕業だから、退治してくれって言われたわ」
「お前に電話がきたなら、お前が行けばいいじゃねえか」
「そうしてもよかったんだけどね、あっちはあんたをご希望なのよ。だから、私は今回仲介役ってわけ」
「ふーん…」
「で、ここからが本題なんだけど」
そう前置きし、レディは机に寄りかかる。
「ついさっき、その依頼人からまた連絡があってね。私以外に頼んでた仲介屋がいるらしくて、その仲介屋が仕事を渡してるハンターがこの仕事を引き受けたんですって」
「なら、そいつに任せりゃいい」
「話は最後まで聞きなさい。その仕事を引き受けたハンターっていうのが女らしいんだけどね、三年前、他のハンター達の間で噂になってた人物なのよ」
「噂?」
「ええ」
頷くと、レディはある単語を呟いた。
「『frozen butterfly』…その名を聞いたことはない?」
「『frozen butterfly』?聞いたことあるような、ないような…」
腕組みをして、ダンテは考え込む。
「若い女の子でね、見た目は華奢なんだけど、男顔負けの力を持ってて数々の依頼をこなしていたらしいわ。その当時は10代くらいだったって、実際見た奴から聞いたことがあるわ」
「10代か…随分若いな」
「でしょう?それでね、」
組んでいた足を組み換え、レディは続ける。
「かなり真面目な子だったらしくて、おちゃらけた奴とは仕事をしないっていうのが主義だったみたい。男がナンパしようものなら、氷みたいな冷たい目で一蹴してたらしいわ」
「おお、そりゃ怖い」
大げさに腕を広げ、ダンテは言う。
「で、これは実際彼女と一緒に仕事をしたことのある奴の話なんだけど…彼女の戦い方っていうのが、悪魔の攻撃を紙一重で避けて、氷のように鋭い一撃を浴びせるんだそうよ。その戦い方と彼女の着てたコートの動きにちなんで、『frozen butterfly』…『凍れる蝶』って呼ばれるようになったらしいわ」
「若いうちにそんな名前を付けられるとは、大したもんだ」
「そうね」
だけどね、とレディは続ける。
「三年前に突然いなくなったのよ、彼女。ハンターや情報屋の間でいろんな噂が囁かれたけど、結局理由はわからなくて、いつしかその存在は忘れられたの」
そう言うと、なぜかレディは笑みを浮かべる。