「ありがとうございました、おかげで助かりました」
「いえ、やるべきことをやっただけですよ」
深々と頭を下げるスミスにリアラは苦笑しながら告げる。
次の日、リアラは集めた金属をスミスに渡し、襲われたお店に返してくれるように頼んだ。スミスは快く引き受けてくれて、すぐにあの悪魔に襲われた店に金属を返して回ってくれた。店の人達は大層喜び、悪魔との戦いで壊れた道のタイルの修繕費は自分達で出すと言ってくれた。何だか申し訳ない気もするが、せっかくの申し出なので、リアラは素直に受け取ることにした。
その後、スミスの店に戻り、こうして話をしているというわけだ。
「いえ、本当に助かりました。ありがとうございます。では、依頼料を…と言っても、私の店はそれほど繁盛しているわけではないので、大した額は出せませんが」
「数日の生活費さえあれば大丈夫です。気になさらないでください」
リアラがにっこりと笑ってそう告げると、スミスはしばし考えた後、リアラを見上げた。
「…では、変わりにあなたに受け取ってもらいたい物があります」
そう切り出すと、スミスは立ち上がり、ある物を持って戻ってきた。そして、それをテーブルの上に置く。
「スミスさん、これは…!」
リアラは目を見開く。
それは、依頼で守ってほしいと頼まれた、あの銃だった。あの時のように、銀の銃身が日の光を受けて輝く。
「こんな大切な物、受けとれません…!」
リアラが手を添えて銃をスミスの方へと寄せようとすると、その手をスミスの手が止めた。
「あなたに受け取ってほしいんです。いや、あなただからこそ、受け取ってほしいんです」
そう告げると、スミスは胸の内を語りだした。
「私は銃が扱えません…そんな私がこの銃を持っていても、活かしてはやれない。けれど…あなたなら、活かしてやれるでしょう」
「スミスさん…」
「それに…この銃を『きれい』だと言ってくれた、無闇に依頼料を取らない優しい心を持つあなたになら、渡してもいいと思ったんです」
だから、受け取ってください。
そう言うと、スミスはリアラの手を取り、銃を握らせる。
「………」
手の中にある銃を見つめると、リアラは小さく呟く。
「…大切に、します…」
リアラの言葉にスミスは頷くと、リアラに向かって言った。
「よければ、名前をつけてやってください。あいつも、渡そうと思っていた人物の銃に名前をつけてやると言っていましたから」
「名前…」
呟き、リアラは銃を見つめる。
日の光を受けて白く輝く銃身、まるで…
「…『White wolf』」
そう、まるで狼姿の父のような。
リアラの呟きに、スミスはうんうんと頷く。
「『White wolf』、ですか…なるほど、いい名前だ」
しばらく銃を見つめると、リアラは顔を上げ、口を開いた。
「…スミスさん、一つ、お願いがあります」
「はい、何でしょう?」
続きを促すスミスに、リアラは瞳に強い意思を込めて、言った。
「…この銃に、名前を彫ることはできますか?」
「!」
「決意を込めたいんです…この子を、一生使い続けていく決意を」
そして、名に込められた、父の血を受け継ぐ者としての誇りを。
リアラは強く、強くスミスを見つめた。