「…で、仕事、あるんでしょう?」
そう言い、笑うリアラにロイは目を瞬かせる。
「…聞こえてたのか」
「耳はいいからね」
リアラは自らの耳を指差す。
魔狼の血をひくリアラは、よほどの雑音で溢れていない限り、50m先まで音を聞き取れる。そのため、自分が向かっている場所からする声を聞き取ることは容易い。
組んでいた足を下ろし、リアラはもう一度尋ねる。
「で、どうなの?」
「…あるよ。誰も受けないから溜まってる」
肩を竦めてロイは答える。
「溜まってるって、どれくらい?」
「五、六件くらいかな」
「期限はいつまで?」
「短いので明後日、長いので来週末だ」
「全部近場?」
「ああ、珍しく全部町内の依頼だ」
「そう」
頷き、コップの中に残る水を全て飲み終えると、リアラは事も無げに言った。
「それ、全部もらうわ」
「え?全部って、お前…」
「一週間でどう?」
ピッ、と人差し指を立てるリアラに、ロイは目を見開く。
「一週間って…」
「私、今回の旅ではちょっと目的があってね。ある程度旅費が稼げたら次の街に行きたいの」
だから手早く終わらせるわ、と言うリアラに、ロイは首を傾げる。
「目的?何なんだ?」
「人探し」
短く答えると、リアラは立ち上がる。
「ロイ、まだあのガンショップあるよね?」
「あ、ああ…。行ってどうするんだ?」
「弾の補充。久しぶりに仕事するから、準備はちゃんとしとかないとね」
笑って答えると、リアラは手を振りながら歩き始める。
「また後でね、ロイ。ちゃんと依頼主に話通しておいてね」
そう言い残し、扉の向こうへと消えていったリアラを呆然と見ていたロイに、マスターの呟きが届いた。
「まさかあの子が戻ってくるとはねえ…」
「ああ…。だが、あの『frozen butterfly』が帰ってきたとなると、こりゃあ忙しくなるぜ」
腕が鳴るな、と言いつつ、ロイはさっそく依頼人に電話をかけ始めた。