バー『Siren(セイレーン)』。
町の路地裏にひっそりと建つここは、人目につきにくい場所なためか、賞金首を捕まえたり、悪魔狩りを生業とする者や、それに関する情報を提供する情報屋などが客として多く、仕事を求める者達の集い場となっていた。
そんな集い場で、二人掛けの小さなテーブルで一人ビールのジョッキを煽る男。それを見ていた店のマスターが呆れたように口を開く。
「その辺にしといたらどうだい、ロイ」
男―ロイは、金色の目をマスターに向けて、うるせぇ、と呟く。
「最近、依頼を持ってきても請け負ってくれるハンターがいないんだよ。仕事にもなんねぇんだから、やけ酒するしかないだろ」
「それは、あんたの持ってくる仕事が危険だからだろう?」
再びジョッキを煽るロイにマスターは肩を竦める。
その時、チリン、と来客を告げるベルの音が鳴り、継いでギィ、と軋んだ音を立てながら扉が開いた。
「いらっしゃ…」
客にあいさつしようと顔を上げたマスターは、店にきたその人物に目を見開く。その人物はマスターのいるカウンターを横切り、ロイのいるテーブルに向かうと、彼の向かいの椅子に腰を下ろす。
「相変わらず弱いくせに飲んでるのね」
「あ?」
向かいから聞こえた声に若干いらつきながらロイが顔を上げると、アイスブルーの髪をした女が片肘をつきながらこちらを見ていた。
自分の目の前にいる人物に、ロイは目を見開く。
「…リアラ?リアラか?」
「久しぶり。相変わらずね」
そう言い笑う女―リアラに、ロイはガバリと身体を起こす。
「本当に久しぶりだな…!何年ぶりだ?」
「ざっと三年、ってところかな」
そう答えると、リアラはマスターに水を頼む。椅子に座り直し、ロイはリアラに尋ねる。
「急にいなくなったと思ったら…どこにいたんだ?」
「ちょっと実家にね」
マスターから水の入ったコップを受け取り、礼を言うと、リアラはコップに口をつける。
「何かあったのか?」
「ちょっと休みたかっただけよ」
そう答えるリアラを見つめ、ロイは呟いた。
「それにしても、綺麗になったよなぁ、お前…」
ロイの言葉に、リアラは苦笑を溢す。
「何、ナンパ?私がそういうの好きじゃないってこと、知ってるでしょ?」
「ああ、悪い。けど、こんなに変わるとはなあ…」
しみじみと言うロイに、リアラは首を傾げる。
「三年でそんなに変わるものかしらね」
「お前、そう言うけど、三年ってけっこう長いぜ」
「…まあ、そうかもね」
そう言い、リアラは再びグラスに口をつける。
ロイは以前、リアラが外に旅に出た時に会った悪魔の依頼専門の情報屋だ。
会った当時、リアラはデビルハンターになろうとしていた頃で、依頼を探してこのバーを訪れた時にロイと出会った。当時17歳という若さの自分に、実力を見るため(後々聞いたら、『お嬢ちゃんがやれるような仕事じゃない』との嫌味も含まれていたらしいが)、自分に下級悪魔退治の依頼をやるように言ってきた。その依頼を終わらせ、二時間ほどで戻ってきた自分に、ロイは大層驚いた顔をしていたがそれで気に入ったのか、頻繁に仕事をくれるようになった。
20歳でフォルトゥナに戻るまで、よくしてくれた。自分にとっての数少ない知り合いと言えよう。