夜、ゼクスとリアラは向かいあって夕食を食べていた。
音のない空間で、静寂を破ったのはリアラの一言だった。
「…父様」
リアラの呼びかけに、ゼクスは視線を娘へ向ける。彼女は真剣な眼差しで、こちらを見つめている。
「話があるの。…いい?」
「…ああ」
話してみなさい、とゼクスが促すと、リアラは再び口を開いた。
「私、また旅に出ようと思うの」
「…そうか」
ゼクスは頷いて、お前のしたいようにしなさい、と言うと、リアラは驚いた顔をする。
「…驚かないの?」
「あいつがここを出る前に聞いていたからな」
「あいつって、お兄ちゃんに?」
「ああ」
ダンテはここを発つ時、ゼクスに言っていた。
『あいつ、そのうち俺を追いかけに外に出るって言うと思うぜ』
その時はよろしく頼む、と告げて、ダンテはここを出ていった。
三年前にリアラが旅から帰って来た時、彼女の疲弊した姿を見てゼクスは驚いた。彼女に尋ねて、話を聞いているうちに、彼女が人間のことで大きな悩みを抱えてしまったことを知った。
それは、今までフォルトゥナという世界しか知らなかった彼女にとって大きい衝撃で、残酷な事実で。きっと、もう二度と旅に出ることはないだろうと思っていた。
それが、幸か不幸か、教団によって捕らえられた娘を自分の願いを聞き届けた友人の息子が助けてくれて。その子が、娘を見守り、もう一度外へ出る後押しをしてくれた。
まだまだ、彼女は知らないことがたくさんある。それを、旅をすることで知ることができるなら。今抱えている悩みを、彼女が乗り越えることができたなら。
きっと、彼女は成長できる。
子供の成長を願わない親がどこにいるというのだろう。
「旅に出て、たくさんのことを学んできなさい。私のことは、心配しなくていいから」
「父様…」
「あと、時々は、家に帰ってきなさい。お前の顔を見れれば、私も安心できるから」
最後の父親の小さな願いに、リアラは泣きそうになるのを耐えて、頷く。
「…うん」
自分にはまだ、支えてくれる人がいる。それが実感できて、リアラは心が強くなったような気がした。