「人間(ひと)に、嫌気が差してしまったんです」


予想もしなかった言葉に、ダンテは目を見開く。


「デビルハンターになって、各地を回るようになってから、人間の嫌な部分を見ることが多くなって…」


人間を、母を殺した悪魔が憎いから、それを狩るために、そして、旅を続けるためにデビルハンターになった。母を殺した悪魔が見つかるかもしれないという思いを持って。
だが、デビルハンターになってから自分が見たのは、悪魔以上に残酷で欲望に忠実な人間だった。依頼をこなしたのに依頼料を払わない人間なんてまだ軽い方で、自分の欲望のために悪魔を呼び使役し、果ては自分と同じ人間を犠牲にしてまで自分の願いを叶えようとする人間を数え切れないほど見てきた。
悪魔を狩るという仕事柄、そういう人々に関わるのは当たり前のことだろうが、自分にはわからなくなってしまった。
自分達を殺す悪魔に恐怖を抱いているのに、その悪魔以上の残酷さで悪魔を、果ては同族までを使う人間。そんな人間ばかりを見る中で、何とか善い人間を―母のような優しい心を持つ人を見つけようとして。幾人かそういう人を見たが、すぐに視界は悪魔のような心を持つ人間に埋めつくされて。
何とか我慢して旅を続けていたが、とうとう耐えられなくなり、三年経ったころに逃げ帰るように家に戻ってきたのだ。


「…そうか…」


語り終えて俯いてしまったリアラを見ながら、ダンテは頷く。ここを出たことのない、ましてや母親や街の人間しか人間を知らなかった彼女にとって、旅をしてきて見た人間の姿は衝撃的なものだったのだろう。それに加え、教団の人間に捕まり、実験材料にされてしまったのだから、嫌になるのも無理はない。
そう考えていると、黙っていたリアラがぽつりと呟いた。


「…私、自分の立っている場所がわからないんです」

「立っている場所?」


ダンテが聞き返すと、リアラはこくりと頷く。


「悪魔は憎い、だけど、人間は苦手…。どちらも嫌な私はどこに立っているんだろう、って」


悪魔の父、人間の母。そして、その二人の間に生まれた自分。
どちらも誇りに思っているが、二人以外の悪魔や人間を嫌がる自分は、どこに立っているのだろう。
人間であるのか、悪魔であるのか。
リアラの言葉に、ダンテはうーむ、と唸ると、やがて口を開いた。


「…どちらでもねぇんじゃねえか?」


予想もしなかった言葉に、リアラは目を瞬かせる。




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