城から帰ってきた、次の日。
夜、リアラは家の屋根に登って、空を見上げていた。冬の澄んだ空に、星が輝いている。
教団のせいで命の危険に晒されたが、兄と慕う人のおかげでこうして生きているし、見つからないと諦めかけていた母の形見も見つかり、自分の元に戻ってきた。今は、とても穏やかな気持ちだ。
何となくで、リアラは口を開いた。
「〜♪…〜♪」
昔、母によく歌ってもらっていた子守唄。穏やかで優しいメロディがリアラは好きだった。いつの間にかその歌を覚え、自分でも歌えるようになっていた。
心地好さそうにリアラが歌っていると、ふいに後ろから声がかかった。
「リアラ」
何日も一緒にいてもう聞き慣れた声に、リアラは歌うのを止め、後ろを振り向く。
「お兄ちゃん」
「よう」
リアラに向かって軽く手を挙げると、ダンテは彼女の隣りに腰を下ろす。
「お前がここにいる、ってゼクスから聞いてな」
そっか、と返し、リアラは空を見上げる。それに倣うようにダンテも空を見上げ、呟いた。
「…きれいだな」
「…うん。ここは、街の明かりがないから」
それでプツリと会話が途切れ、二人はしばらく無言で夜空を見る。
数分経ったかと思われるころ、ダンテが口を開いた。
「…さっきの、子守唄か?」
尋ねるようなその言葉に、リアラは目を見開く。
「…わかるの?」
ダンテは頷く。
「ああ。…昔、俺のおふくろが歌ってた子守唄と同じだ」
それを聞いて、ああ…、とリアラは納得した。
「…昔、母様がこれを歌ってくれた時に教えてくれたんですけど、この歌は、母様とエヴァさんで作った歌なんだそうです」
「おふくろとおばさんが…?」
「はい」
リアラは頷く。
―母親とエヴァ、二人が生きていて、まだリアラもダンテも生まれていないころ、母親―フィーリアの部屋で、フィーリアの持つオルゴールの音色を二人で聞いている時だった。
『すてきな音色ね』
『ええ。私のお気に入りなの』
『私も好きよ、この音色。そうだ、これに歌詞を付けて、歌にしましょうよ』
『歌に?』
『ええ。とてもすてきな歌が作れそうだわ』
『いいわね。じゃあ、二人で歌詞を考えましょう』
『ええ』
エヴァの一言がきっかけで、二人はこの音色に合う歌詞を作り始めた。 やがて、音色に合う歌詞が出来ると、二人はオルゴールの音色に合わせて、歌詞を口ずさみ始めた。
『ぴったりね』
『ええ。私、もっとこの音色が好きになったわ』
『私も』
二人で笑い合うと、エヴァが続けた。
『ねぇ、この歌、子守唄にしましょうよ。そして、いつか私達に子供が生まれたら、その子に歌ってあげるの』
『すてきね、そうしましょう。私達二人の子守唄ね』
『そう、私達二人の、ね』
そう言って楽しそうに笑った二人に、午後の穏やかな陽射しが降り注いでいた。