夜も更け、月が空高く昇った頃、ダンテは目を覚ました。まだ眠気ではっきりしない頭で、ダンテは先程の出来事を思い出す。
(あれは夢…だったのか…?)
リアラの後ろに見えた、見覚えのある人影。リアラの母親に、自分の両親、そして双子の兄。夢にしてはやけに鮮明で、本当にいたのではないかと思える程だった。
とりあえず身体を起こそうと、ダンテがリアラの左手に添えていた片手を離した時だった。
きゅっ
「!」
繋いだままだった左手が、握り返される。ーリアラの左手が、反応を示したのだ。
閉じられていた瞼が、ゆっくりと開かれる。澄んだ瑠璃色の瞳が、ゆっくりとこちらに向けられた。
「ダンテ、さん…」
「リアラ…っ!」
自分を呼ぶ確かな声に、ダンテはくしゃりと顔を歪める。
「目を覚ましてくれて、よかった…また、大切なものを、失うかと…」
「ダンテさん…」
震える声で告げ、俯くダンテ。リアラはゆっくりと起き上がると、そっとダンテに両手を伸ばした。
「!」
「心配させてしまって、ごめんなさい。…また、ダンテさんに辛い思いをさせてしまうところでした」
広い背中に手を回し、謝りながらリアラは続ける。
「…死んでもいいと、思ってたんです。母様の仇を討つという目的を果たした以上、何も思い残すことはないって。…けれど、母様達が…生きなさい、って、背中を押してくれたんです」
「おばさんが…?」
「はい。母様だけでなく、おじ様もおば様も…それに、バージルさんも」
その言葉に、ダンテは先程の出来事を思い出す。
じゃあ、あれは…。
「夢じゃなかった、のか…?」
「…じゃあ、あれはやっぱり、ダンテさんなんですね」
ダンテの言葉に全てを察したのか、リアラが呟く。
「男の子の姿をしていたから、一瞬誰かわからなかったけど…ダンテさんの面影があったから」
「そういえば、視線がずいぶん低かったような…」
「12、3歳くらいの姿でしたよ」
「ちょうど、リアラが生まれた時の歳だな」
「そうですか」
リアラは柔らかな笑みを浮かべる。
「母様は傍にいてくれる大切な人達がいるから生きなさい、って。おば様はダンテのことをよろしくね、って。寂しがり屋な子だから、って。…おじ様は、こちらを見て笑ってました」
「…そうか」
「…それと、バージルさんが…お兄ちゃんが、自分の人生に後悔はしていないけど、ダンテさんを苦しめたことだけは、少し後悔してる、って」
「…っ」
「ダンテさんとネロのことを頼む、って言ってました。…最後まで、『お兄ちゃん』でしたね」
「ああ…そうだな」
少しだけ、救われた気がした。あいつが、そう思ってたなんて。
ゆっくりと、ダンテはリアラの頬に手を伸ばす。リアラは首を傾げる。