「…すまなかった。あの時、お前の気持ちに応えてやれなくて」
「…っ」
「結局、あいつとは考えがすれ違ったまま、あんな別れ方をしてしまった。…自分の生き方に後悔はしていないが、あいつを苦しめたことだけは、少し、後悔している」
「…テメンニグルと、マレット島のことですか?」
「…ああ。お前にも、兄らしいことはしてやれなかったな。むしろ、苦しめてしまった。…すまない」
そう言い、目を閉じたバージルに、リアラはふるふると首を振る。
「そんなことない。…何があったとしても、バージルさんは私のお兄ちゃんだよ。あの時、私の頭を撫でてくれた優しい手を、私は忘れていないよ」
リアラの言葉に、バージルは顔を上げる。
「…こんな俺でも、兄と呼んでくれるのか?」
「うん」
微笑んで頷くリアラに、バージルの口元が僅かに緩んだ。
ぽん、とリアラの頭にバージルの手が置かれる。ーあの時と変わらない、優しい手だった。
「…あいつを、ダンテを頼む。…ネロのことも」
「うん、わかってる。私で、いいなら」
ふ、とバージルの頬が緩み、目が細められる。それは、妹を思う兄の顔だった。
ふと、バージルの視線がリアラの背後に移る。
「…どうやら待ち切れなかったらしいな。迎えが来たぞ」
「…え?」
リアラがその言葉の意味を理解する前に、後ろからぐいっとコートを引っ張られた。
リアラが後ろを振り返ると、そこには12、3歳程と思われる男の子がいた。白いワイシャツに黒いズボンのその男の子は銀髪にアイスブルーの目で、よく知った人物の面影があった。
思わず、リアラはその名を呟く。
「ダンテ、さん…?」
「帰るぞ、リアラ!」
上手く状況を飲み込めていないリアラの手を引き、ダンテは歩き出す。戸惑いながら後ろを振り返ったリアラに、フィーリアは手を振る。
「あの人に伝えて。私はあなたと生きれて幸せでした、って。…幸せになってね、リアラ」
「…うん!」
涙を零しながら、リアラは大きく頷く。四人の影が霞んでいくと同時に、眩い光がリアラを包み込んだ。