未だに目を覚まさないリアラを静かに見守っていたケルベロスは、扉の開く音に視線を移す。
『…心は決まったか?』
「ああ」
頷くダンテの瞳に、先程の戸惑いは見られない。決意の籠った真っ直ぐなその目に、ケルベロスは目を閉じる。
『…そうか』
「…まだ、やり残したことがある。頼むケルベロス、リアラと二人きりにさせてくれないか?」
『…わかった』
頷き、立ち上がったケルベロスはダンテの横をすり抜け、部屋の外へ出ていく。階段を下りる音を聞きながら、ダンテはリアラの眠るベッドに近づいた。
「……」
傍に寄せていた椅子に座り、ダンテはリアラを見つめる。か細い呼吸を続ける彼女は、まだ生死の境を彷徨っているようだった。
静かに、ダンテは口を開く。
「…なあ、リアラ。お前は今、生きたいと思ってるか?それとも、死んでもいいと思ってるか?」
答えが返ってこないのをわかっていながら、ダンテは続ける。
「もし、死んでもいいと思ってるなら、それは叶えてやれない。…お前がいなくなったらきっと、俺は立ち直れないからな。心に大きな穴が開いたみたいになっちまう。だからな…」
一旦言葉を切ると椅子から立ち上がり、ダンテはリアラの顔に自分の顔を近づける。布団の中から探り当てた彼女の左手を握りしめ、吐息のかかる距離でダンテは囁く。
「…これは俺のわがままだ。生きろ。何があっても、俺が守るから」
ゆっくりと、ダンテの唇がリアラの唇に重なる。なるべく彼女の身体に負担をかけないように、必要だと思う分だけ彼女の内に魔力を流し込む。
「…頼む、生きてくれ…」
一縷の望みをかけて、ダンテはリアラの手に自分の額を押し当てた。