「…バカ野郎…」


何で、自分の幸せを願わない。何で、俺なんかの幸せを願う。
いや、とダンテは首を振る。


(わかってる、あいつが自分より他人(ひと)の幸せを願うやつだって)


けど、こんな時まで。自分の命の危機が迫っている時まで、俺のことを気遣わなくてもいいじゃないか。


「リアラ…」


名前を呟くと同時に、彼女と過ごした三ヶ月が頭の中を駆け巡る。彼女の笑う顔も、泣く顔も、怒る顔もはっきりと思い出せる。一つ一つが温かくて、優しい思い出。それはまるで、家族と過ごしているかのような。


(いや…違う、な)


確かに、リアラは家族同然の存在だ。だが、それだけではない。もっと、それ以上の存在のように思う。家族という言葉だけでは表せない、何か。
いつから、意識するようになっただろう。事務所に来た時から、ちゃんと一人の女性としては見ていた。なら、不慮の出来事でキスをしてしまった、あの時?確かに、嫌な思いはしなかった。けど、どっちかというと彼女に申し訳ないという気持ちが強かった。それ以外だと…。


(…ああ、あの時かもしれない)


ふいに思い出したのは、依頼で金持ちの屋敷のダンスパーティーに客に扮して行った時のこと。
会場に現れたドレス姿のリアラは、とても美しかった。普段しない化粧をし、シンプルなドレスに身を包んだ彼女の姿は、一人の女性として意識させるのに充分だった。
そして、手を取ってダンスを踊る中、彼女が見せた花が綻ぶような笑み。以前も見たその笑顔に、ドキリとさせられた。
きっと、この時からだ。一人の女性として意識し始めたのは。


(いつの間にか、大人になってたんだな…)


けれどきっと、それだけじゃない。自分を大切な存在として心配して、傍にいてくれた彼女。真っ直ぐに自分を見つめる瞳、気遣いの籠った言葉…ずっと変わらないそれは、何度も自分を救ってくれた。そして今は、帰る場所となっている。


(ああ…そうか)


いつの間にか、彼女がいることが日常になっていた。忘れていた人の温かさを思い出させてくれた彼女の存在は、知らないうちに自分の中で大きなものとなっていた。
ダンテは胸元を強く掴む。


(ごめんなリアラ、今になって気づいた…俺は、お前が好きなんだ)


今更ながらに気づいた自分の心に、後悔ばかりが頭を占める。しばらくの間ダンテは俯き、その場を動かなかった。




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