一足先にリビングの中央に位置するソファに座って考えを巡らせていたケルベロスは、奥から響いた扉の開く音に顔を上げる。
「待たせたな」
『構わぬ。いろいろと思うこともあるだろう』
バスルームから姿を現したダンテは、肩にタオルをかけたままケルベロスの向かいのソファに腰掛ける。
『珍しいな、今日は上も着ているのか』
「さっき着てたやつだけどな。話するのに、あんな格好もなんだろ」
普段はズボンを履くだけで上半身は裸のダンテが、今は黒のインナーを着ている。珍しそうに目を丸くするケルベロスに視線を合わせ、一呼吸置き、ダンテは尋ねた。
「…で、話ってのは何だ。リアラに関することだって言ってたが…」
『…本当は、話すべきではないのだろうが…』
目を細め、憂いの表情を浮かべたケルベロスは、ゆっくりと語り始めた。
『二日前、お主が依頼に行っている間、主と一つ、約束をした』
「リアラと?」
『「もし私が死んだら、元の持ち主であるダンテさんに付きなさい」。…最後は、頼む形だったが』
「!」
『母親の仇である悪魔が、自分のいる場所に気づいた。近い内に自分の前に現れるだろう、と。生きて帰ってこれるかわからない、だから、自分が死んだら、元の持ち主であるお主に付け、と』
「そ、んな…」
ダンテは目を見開いたまま、言葉を零す。上手く、口が動かない。
死ぬ?あいつは、そこまで考えてたというのか。もしものことまで考えて、ケルベロスに話をしたと、そういうのか。
ケルベロスは続ける。
『一度我を手放したお主に付くのは複雑な気分だが…一度は戦い、力を認めた者だ。問題はないだろう。それに何より、主の願いだからな』
「何、言ってんだ…それだとまるで、あいつは死ぬって言ってるようなもんじゃねえか」
『その可能性は否定できまい。我とて、主が怪我なく無事に帰ってきたなら、この話はしなかった』
淡々と話すケルベロスの姿に、改めて目の前にいる相手は悪魔なのだと思い知らされる。
『我の話はこれだけだ。…主の様子を見てくる』
ソファから降りたケルベロスは、階段へと向かって歩き出す。
階段の前で、ふいにケルベロスが足を止め、こちらを振り向く。
『お主は、どうするのだ』
「どうする、って…」
『主は、こうなるのを覚悟していた。だから、我にこの話をした。自分の死んだ後のことを考えて。…それを聞いても、お主は何もしないのか?ただ、見ているだけか?』
「……」
『主が死んだ時は、主との約束通り、お主に付こう。…だが、今のように腑抜けたままでいるならば、従いはせぬぞ。そこまで約束はしていないからな』
「……」
『…よく、考えておけ』
そう言い残すと、ケルベロスは階段を上っていく。少しして、扉の閉まる音が小さく響いた。
脱力したようにソファに身体を預け、ダンテは天井を見上げる。