金属のぶつかる音が、夜空にこだまする。リアラはディアクトで、リグレットは紫の爪で応戦し、はじき、はじかれを繰り返す。二人の武器がぶつかるごとに激しい火花が散る。
「っ…!」
『っ、だいぶ強くなったなぁ…これは一筋縄ではいかなそうだ』
ニヤリと笑うと距離を取り、リグレットは両手を広げる。黒いローブの中には黒い闇が広がっており、そこからグラディウスやスケアクロウ、バジリスクの形をした影が現れた。
影でできた悪魔達を従え、リグレットは口を開く。
『これだけの悪魔を、一人で相手できるかな?』
す、とリグレットが手を掲げると同時に、悪魔の群れがリアラに向かって飛びかかる。自分に向かってくる悪魔を鋭い目で見据え、リアラは言う。
「なめるな」
リアラが片手を掲げると、周りに無数の氷の粒子が現れ、瞬く間に悪魔を氷漬けにする。それをディアクトで発生させた衝撃波で破壊したリアラは、リグレットに向かって突進する。
『おっと』
リアラの攻撃を紙一重で交わしたリグレットのローブが大きく裂ける。しかし、すぐに黒い靄のようなものが裂けた部分を包み、元通りになってしまった。
『危ない、危ない…』
空中でユラユラと揺れながら、リグレットは次々と影の悪魔を生み出す。それを素早い動きで倒したリアラは、リグレットに向かって言い放つ。
「いつまでこんなことをしているつもり?こんな無駄なことを続けていることで、あんたの魔力はどんどん減ってるのよ」
『おやおや、そこまで気づいていたとは…少し侮り過ぎたようだ』
地へと降りてくると、リグレットは再び両手を広げる。
『次で決着をつけようか』
「…ええ」
次は、外さない。ディアクトを両手で構え、リグレットに狙いを定めると、リアラは地を蹴る。それと同時にリグレットのローブの中から新たな影が現れる。
「何を出しても無駄よ!」
そう言い、リアラがディアクトを振り下ろそうとした、次の瞬間。
「…っ!」
目の前に現れたものに、リアラの目が見開かれる。緩く結われた腰まで伸びた長い髪、控えめに重ねられた手、そして、自分に向けられた微笑み。
リアラの口から言葉が零れ落ちる。
「母様…」
この世にいるはずのない母・フィーリアの姿に、リアラの心は乱れ、動きが鈍る。
リグレットは、その隙を見逃さなかった。
ドッ
「…っ、は…!」
一つにまとめられた紫の爪がフィーリアの影ごとリアラを貫き、リアラは身体を仰け反らせる。
フィーリアの形をした影が消え去り、リグレットはリアラに顔を近づける。荒く息を吐きながら、リアラはリグレットを睨む。
「この、卑怯者…」
『何とでも言えばいい。勝てばいいんだからな』
そう言うと、リグレットは腕を捻り、リアラの傷を抉る。身体に走る激痛に、リアラは目を見開く。
「っ、あ…!」
『お前の言う通り、だいぶ魔力が減ってしまったからな…お前のを頂くとしようか』
そう告げると同時にリグレットの爪が淡く光り、魔力を吸収し始める。徐々に身体に力が入らなくなり、ディアクトが手から滑り落ちる。
『あの女と同じように、最後まで苦しむ顔を見ていてやろう』
楽しそうに口を歪め、リグレットがリアラの顎を持ち上げた、その時。