事務所で惰眠を貪っていたダンテは、外から響くゴロゴロと唸るような音に目を覚ました。


「だいぶ天気が悪くなってきたな…」


椅子から立ち上がり、窓から外を見やると、濃い灰色をした雲が空を覆い尽くしていた。一雨来そうだな、と思ったダンテは、ふいに浮かんだ記憶に眉根を寄せる。


「……」


もう二十年も前のことなのに鮮明に浮かんだ記憶に、ダンテは内心、深いため息を吐く。今でも思い出し、それをずるずると引きずっている自分に。


(やっぱり、雨は好きになれないな…)


そう思い、窓から目を逸らした時、机の上の電話が鳴り響いた。ダンテはだるそうに歩くと、受話器を取る。


「DevilMayC…」

『ダンテか!?』


お決まりの言葉を言い切る前に、受話器の向こうから大きな声が響く。それに驚いたもののため息をつき、ダンテは電話の相手に声をかける。


「ちょっと落ち着け、坊や。で、何の用だ?」

『落ち着いてる場合じゃねぇんだよ!リアラは!?』


唐突に出た名前に眉根を寄せ、ダンテは答える。


「リアラなら買い物に行ってるが…」

『マジかよ…クソッ!』


焦ったように舌打ちするネロに、益々わけがわからない。ただ、何となく嫌な予感がして、ダンテは問う。


「おい坊や、リアラがどうしたっていうんだ。ちゃんと説明しろ」

『…っ、さっき、依頼の時にリアラを狙ってる悪魔に会った。リアラが危ない!』

「!」


ネロが告げた言葉に、ダンテは目を見開く。ネロは続ける。


『あの時、気づけばよかったんだ…リアラに最近、街の外に悪魔が多く出ることを相談したあの時、リアラ、「たぶんそれはフォルトゥナには関係のないことだと思う。少ししたら収まるわ」って言ってた。思う、じゃない、収まるって言い切ってた!あの時、気づいてれば…!』

「ネロ、その悪魔はどこに行った!?」

『わからない、地面に現れた黒い穴に消えていっちまって…けど、リアラのところに向かったんだってことはわかる』

「…っ」


ギリッ、と唇を噛みしめ、ダンテは力任せに受話器を置くと、コートを手に取り、袖を通す。双子銃と剣を持ち、急いで玄関の扉に手をかけた、その時。

バンッ!

「ダンテ!」

「レディ?」


自分が扉を開けるよりも早く扉が開き、見慣れた顔が見えた。レディだ。走ってきたのだろう、息を切らせており、必死に呼吸を整えている。そして、なぜか花束を抱えていた。
その姿に違和感を感じながらも、ダンテは口を開く。


「何の用だ、レディ。悪いが今は急いで…」

「っ、リアラが…!」


レディの口から発せられた名前に、ダンテの目が見開かれる。


「っ、リアラの居場所を知ってるのか!?どこにいる!?」

「商店街を過ぎた先よ、たぶん、街の外れに向かったと思う」

「っ!」


レディの言葉を聞いてすぐ、ダンテは事務所を飛び出す。建物の屋根を伝い、風を切るように移動しながらダンテは脳裏に浮かんだ姿に唇を噛みしめる。


(リアラ…!)


間に合えと、ただそれだけを願いながら、ダンテは走り続けた。




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