「……」


カラン、と氷とウイスキーの入ったグラスを傾けながら、ダンテは考え込む。


(あんなことを、思ってたなんてな…)


あの後、洗い物を終えたリアラは手早くシャワーを浴び、簡単に挨拶をしてさっさと二階へ上がってしまった。まるで、自分から逃げるように。


(俺が思ってたよりもずっと、あいつの心にはおばさんを助けられなかった後悔が深く残ってる)


自分の生きる目的が母親の仇を討つことだと、そう言ってしまうほど。それほどに強い自責の念と後悔にかられているのだと、今更ながらに思い知った。


(…まるで、昔の俺みたいだな)


まだまだ未熟で若かった自分。生きる目的などなく、刹那の快楽を楽しみとしていた。未来のことなど、何も考えてはいなかった。ー今でも、未来のことなんて考えてはいないが。
いや、とダンテは首を振る。


(違うか。未来のことについて何も考えてないのは同じだが、あいつは、もっと危うい)


おそらく自分なら、生きる目的などなくとも何となくで生きていただろう。
だが、リアラは。『母の仇を討つ』、その目的を達成してしまったら、彼女は、その先を生きようと思えるだろうか。何も思い残すことはないと、死んでしまおうとしたりしないだろうか。
ーいきなり、目の前から消えてしまうのではー。


「…っ」


大切な者を失った記憶が蘇り、息が詰まる。


(だめだ、そんなことさせたら…あいつにはまだ、先がある)


彼女はまだ若い。これからも様々な経験をするはずだし、そして、生きている中でいつか彼女の幸せだって見つかるはずだ。


(もし、そんなことがあったら…何があっても、止める)


一つの決意を胸に秘め、ダンテはグラスを持つ手に力を込めた。



***
2014.11.30




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