「不味かったらごめんな」
「いえ、ありがとうございます」
ダンテの手からカップを受け取り、リアラは口をつける。
食事中、二人はずっと無言だった。リアラは俯いたまま食事を食べ、ダンテはそんな彼女の様子を見ながら食べた。先程の出来事の後のため、おいしいはずの食事がおいしく感じられなかった。それは彼女も同じだろう。
食事を終えた後、洗い物をしようとしたリアラを止め、ソファに座らせた。少しでもリラックスできるようにといつも彼女がしてくれるように自分と彼女の分のカフェオレを作る。
カップを受け取り、口をつけたリアラの向かいに座り、ダンテは口を開く。
「…で、何があった?」
リアラは俯くと、手の中のカップを握りしめ、少しずつ話し出した。
「…ネロから電話が来た時、ダンテさんへの伝言を引き受けた後、一つ、相談を受けたんです」
「相談?」
「…最近、フォルトゥナに悪魔がよく出る、って。それも、メフィストやファウストばかり。これって、どういう意味だと思う?って」
それに、とリアラは続ける。
「何かを探してるみたいだった、って。自分のことなんか眼中になかった、って」
「悪魔が探し物?一体何を…」
首を傾げるダンテに、リアラはポツリと呟いた。
「私、でしょうね」
「!?」
予想もしなかった言葉に、ダンテは目を見開く。顔を上げ、ダンテを真っ直ぐに見つめると、リアラは続ける。
「まだ、ダンテさんには母様の仇である悪魔について話していませんでしたね。悪魔の名前はリグレット、黒いローブを着て顔の上半分に赤い仮面を着けた姿をした悪魔です。メフィストやファウストの一番上に立つ上級悪魔です」
「リグレット…そいつが仲間を使ってお前を探してる、っていうのか?」
「おそらくは」
頷くと、リアラはティーカップの中の水面を見つめる。その姿を見つめながら、ダンテは静かに問うた。
「…もし、そいつを倒したとしたら、その後お前はどうするんだ?」
「え?」
予想もしない質問に、リアラは目を見開く。ダンテは黙って、こちらを真っ直ぐに見つめている。
次の瞬間、リアラはふ、と自嘲の笑みを浮かべた。
「…何も考えてませんよ。今の私にとって、母様の仇を討つことが全て。…未来のことなんて、考えてません」
一呼吸置くと、リアラは続ける。
「本当は、わかってるんです。仇を討ったって、母様は喜ばないって。途中で気づいた、けれど、私の生きる目的はこれしかない」
残りのカフェオレを一気に飲み干すと、リアラはぎこちない笑みで言う。
「この話はこれでおしまいです。心配させて、ごめんなさい」
ダンテの言葉を待たずに立ち上がり、リアラはキッチンへと向かう。
自分に向けられた視線に、気づかないふりをしながら。