『そう。じゃあ、また今度にしましょうか』
「うん。…ごめんね、レディ」
『いいのよ、じゃあね、リアラ』
「うん、じゃあまた」
通話の切れた受話器を静かに置くと、後ろから肩を叩かれた。リアラが後ろを振り返ると、いつの間にか準備を終えていたダンテがいた。自分を見るその目には心配の色が浮かんでいる。
「…大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、魔力も落ち着いているし、精神が不安定、ということもありませんから」
リアラは苦笑しながら告げる。
今夜は満月ー魔力が高まり、過去の負い目ゆえに精神が不安定になりやすい日。前回の出来事でダンテはそのことを理解してくれているから気持ちは少し楽だが、それでも満月が近くなると悪夢を見ること、夜に外へ出ることへの不安は変わらない。
「ほら、急がないと仕事に遅れますよ」
そう言ってリアラは壁の時計を指差す。約束の時間は刻々と迫っている。
「…なるべく早く帰ってくる」
「無理しなくていいですから。怪我だけはしないでくださいね」
「…ああ」
くしゃりとリアラの頭を撫で、行ってくる、と一言告げてダンテは事務所を出ていく。行ってらっしゃい、とリアラは笑顔でその後ろ姿を見送った。