「…ん…」


瞼の裏に射し込む光に眉を寄せ、ダンテはゆっくりと目を開く。寝ぼけ眼で天井を見つめ、ようやく自分の部屋だと理解する。


(…ああ、そういえば…)


依頼先で悪魔に呪いをかけられ身体が思うように動かない中、やっとの思いで事務所に帰り、そのまま意識を失ったんだったか。
覚えているのは意識を失う直前に耳に響いたリアラの声。焦りを滲ませた声音を思い出して、心配をかけてしまったと反省する。あれだけ、気をつけろと言われていたのに。
そんなことを考えていたダンテは、ふいに自分の左手を包む温かさに気づいて視線を移す。


「…すー…」


そこには、椅子に座ったまま自分の手を握りしめて眠るリアラの姿。もしかして、昨夜からずっと傍にいてくれたのだろうか。


『目を覚ましたか』


ふいに聞こえた声に、ダンテは声のした方へ視線を移す。いつの間にかベッドの側までやってきたケルベロスがこちらを見上げていた。


「お前もいたのか」

『昨夜からずっとな。主に感謝しろよ、主がお主に魔力を送ったおかげで呪いが早く解けたのだからな。わざわざ自分の魔力をお主の魔力に似せることまでして…』

「リアラが…」


ああ、だからあの時身体が楽になったのか。涼しさを感じるとともに、優しい何かに包まれるような感覚。あれは、彼女が自分に魔力を送ってくれていたからで。
深いため息をついて、ケルベロスは続ける。


『全く、お主には呆れるわ。あれ程主が気をつけろと言ったというのに…』

「さすがに俺も反省してる。最後の最後で気を抜いちまったからな」


あの時、倒したと思い背を向けた瞬間、悪魔が最後の力を振り絞り、自分に呪いをかけてきたのだ。どうやら魔力を封印してしまう呪いのようで、力を封じられた身体は思うように動かず、鉛のように重く感じた。
肩を竦めて言うダンテに再びため息をつき、ケルベロスは身を翻す。


『我は下にいる。何かあったら呼べ。…主はしばらくそのままにしてやれ、お主に魔力を渡したことで疲れたんだろう』

「ああ、わかってる」


ダンテが頷くと、ケルベロスは部屋を出て行く。パタン、と扉が閉まるとともに、ダンテは傍で眠るリアラに視線を移す。


「……」


自分が倒れた時、彼女はどれだけ辛かっただろう。心配しただろう。それに、魔力を自分のに似せて渡してまでくれて。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「…ごめんな」


自分の手を包み込むリアラの手を握り返し、もう片方の手で彼女の頭をゆっくりと撫でる。
まだ疲労の残る身体は睡眠を欲している。睡魔に誘われるままに、ダンテはゆっくりと目を閉じた。



***
2014.8.1




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