氷水を張った洗面器とタオルを持ってダンテの部屋に入るとサイドテーブルにそれを置き、リアラはベッドの側に置いた椅子に腰を下ろす。
「…う……」
「……」
苦しそうに呻くダンテを心配そうに見つめると、リアラは氷水の張った洗面器にタオルを浸け、固く絞った後に形を整えると、ダンテの額にそれを乗せる。そして、投げ出された彼の左手を両手で握りしめると、リアラは祈るように目を閉じる。
「…ダンテさん…」
見守るべきなのはわかっているけれど。大切な人が目の前で苦しんでいるのに、何もできないなんて。
せめて、自分の魔力を渡せたなら、手助けになるかもしれないのに…。
そこまで考えて、ふとリアラは気づいた。
(…できるかもしれない)
自分の持つ技の一つに、『パワーチェンジ』という技がある。ー自分と同じ氷結属性の悪魔の魔力を自分の魔力に変えて吸収する技だ。
少しでも魔力がなくなることを減らすために考えたこの技は、相手の魔力を瞬時に自分の魔力に変える集中力と繊細な魔力のコントロールが必要になる。使えるようになるために何度も同じ属性の悪魔と戦いながら試し、やっと身につけた技だ。数え切れない程失敗し、大怪我をしたこともある。今はもう失敗することなんてないが。
(これを、逆の方法でやれば…)
自分の魔力をダンテの魔力に変え、彼の体に送り込む。どれだけ変化させたとしても他人の魔力だ、彼の身体に拒否反応が起こらないとも限らない。
でも、それでも。
(見守るだけより、ずっとまし)
心の中で呟き、リアラは握りしめたダンテの手に額を当て、集中し始める。
「………」
普段のダンテの気配を思い出して、それに合わせるように魔力を変化させていく。何度かケルベロスに魔力を与える時に同じことをしているので、多少時間がかかったものの、ダンテの魔力に似せることができた。その魔力を、少しずつ、ゆっくりと彼に手渡していく。
「…ん…」
ピク、とダンテの指が反応を示す。拒否反応が出たのかと心配したが、それ以上は何もなかったのでほっとしてそのまま魔力を渡し続ける。
集中し始めて数十分が経った頃、リアラはある変化に気づき、目を開けた。
(悪魔の気配が、消えた…)
途切れるように悪魔の気配が消え、それと同時にダンテの魔力を感じる。呪いが解けたのだろう、今はもう苦しげな声を漏らすこともなく、ダンテは穏やかな顔で眠っている。
「…よかった…」
ほっと安堵したと同時に、どっと疲労感に襲われる。睡魔に誘われるままに、リアラは目を閉じた。