『少しは落ち着いたか?』
「…うん。ありがとう、ケル。取り乱しちゃってごめんね」
ココアの入ったカップを握りしめ、リアラは頷く。
あの後、何とか頭を働かせ、まずはダンテを休ませようと考えたリアラは、ケルベロスの力も借りて何とかダンテを彼の部屋まで運び込み、ベッドに寝かせた。寝るのに邪魔になるであろう武器やコートを片づけ、ベッドの側に椅子を寄せて座ったリアラはしばらくその場を動かなかった。見かねたケルベロスが一度気持ちを落ち着かせるために何か飲むように勧め、それに頷いて今に至る。
『あんな状況だ、仕方がない。…それにしてもあやつめ、あれほど気をつけろと主が言ったというのに…』
苦々しげな顔で言うケルベロスに苦笑し、リアラはケルベロスの頭を撫でる。
「いいの、ケルベロス。生きていてくれさえすれば、それでいいの」
あの時は取り乱してしまったが、怪我はしていないようだったし、命に別状はないと思う。
『主は優しすぎるのではないか?たまにはしっかりと叱りつけてやらねば』
「あはは…」
呆れながら言ったケルベロスは、考えるように眉間に皺を寄せる。
『…しかし、先程のあやつには何か違和感を感じる。何というか…』
「…魔力を、感じない?」
リアラの言葉に、ケルベロスは顔を上げる。
『…気づいていたのか』
「ええ、ダンテさんの身体を支えた時に、ね。…たぶん、依頼先で悪魔に何らかの呪いをかけられたんだと思う」
そんな呪いは見たことがないからそうとは言い切れないが、魔力がいきなりなくなるなんてことは普通では考えられない。なら、そう考えるのが妥当だろう。
『ふむ…怪我をしているようには見えなかったし、その可能性は高そうだな』
「あの時、ダンテさんにまとわりつく悪魔の気配を感じたから、間違ってはいないと思う。ただ、いつ解けるかはわからない。死ぬ間際にかけたんでしょうね、かなり強い気配がしてた」
『…元に、戻るのか?』
「…戻るとは思う。死んだ後も魔力が持続するなんてことは魔具とかじゃない限りありえないし。…ただ、時間はかかると思う」
『…そうか』
頷くと、ケルベロスはリアラの足元に歩み寄る。
『今日はもう休むべきだ。いろいろとあって疲れたろう、主まで倒れてしまっては話にならない』
「…そうだね、そうする」
苦笑しながらケルベロスの頭を一撫でし、リアラはソファから立ち上がった。