遡ること、八時間前。昼食を食べ終え、食後のお茶を飲みながらダンテととりとめもない会話を交わしている時だった。
ジリリリリン!!!
穏やかな空気を切り裂くように、事務机の上にある電話がけたたましい音を立てる。組んでいた足を解き、踵で机を蹴ったダンテは、その衝撃で浮き上がった受話器をキャッチし、お決まりの言葉を口にする。
「DevilMayCry?」
何度か頷きながらやり取りを交わすダンテ。様子を見るに、悪魔関係の依頼だろう。その様子を見ていたリアラは、突然、背筋に走った悪寒にぶるりと身体を震わせる。
『主?』
リアラの様子に気づいたケルベロスが顔を上げる。
「ちょっと悪寒が…」
そう答えると、リアラは腕をさすりながら考える。
(この感じ…何か嫌な予感がする…)
今までにも何度かこういう感覚はあった。それは必ずと言っていい程依頼を受ける時にあって、受けた場合は仕事中に怪我をするし、断った場合は後日その依頼が人身売買など裏の世界に関することだと知ったりする。それが半魔ゆえの感覚なのか、単なる直感なのか自分にはわからないが、リアラはその時にはいつも以上に慎重に行動していた。
ようやく話が終わったのか、ダンテが受話器を置く。
「依頼ですか?」
「ああ、街外れの廃墟に悪魔が出たんだと。このままだと取り壊すことができないから、早く退治してくれとよ」
そう言って出かける準備を始めたダンテを、リアラは不安そうな目で見つめる。いつもと違うリアラの様子に気づいたダンテは彼女の座るソファに近づく。
「どうした?」
「…その、さっき、何だか嫌な予感がして…」
困ったように目を伏せて答えると、リアラはダンテを見上げる。
「…気をつけて、くださいね」
「ああ、わかった。だから、そんなに心配するな」
安心させるようにリアラの頭を撫で、ダンテは事務所を後にしたのだった。