「ただいま」
帰宅の言葉とともにダンテが事務所の扉を開けるが、いつも聞こえる声は返ってこない。ダンテが辺りを見回すと、目の前のソファに小さな塊が見えた。
「……」
近づいて見てみると、リアラが横になって眠っていた。壁の時計を見上げれば、すでに日付は変わっている。きっと、待ち疲れて眠ってしまったのだろう。
(起こすのも悪いが、どうなったかを話してやらねぇとな…)
そう考えると、ダンテはリアラに声をかける。
「リアラ」
『…ん…』
小さく身じろぎ、リアラはゆっくりと目を開ける。
『ダンテ、さん…?』
「ただいま、リアラ」
眠たそうな目でダンテの姿を捉えた途端、あまりの顔の近さに、リアラは顔を真っ赤にして目を見開く。
『…っ!?ダ、ダンテさん…!?きゃっ!』
「危ねぇ…っ!」
慌てて身を起こしたためか、ついた手がソファから滑り落ち、リアラの身体が傾く。急いでダンテが支えたのだが…。
『…っ!』
唇に当たる感触に、リアラは目を見開く。先程より近い顔、密着する身体から感じる体温、お互いの顔を映す瑠璃とアイスブルーの瞳。ダンテも驚いているのか、目を見開いたまま動きを止めている。
「………」
「……っ、あ、ご、ごめんなさい…!」
慌てて唇を離して謝るリアラに、あ、とダンテは声を溢す。
「声、戻ったな」
「え…?あ…」
ダンテの言葉に、リアラは喉に手を当てる。ダンテは片手をあげると、彼女の頭を優しく撫でる。
「よかったな」
「う、うん…」
顔を真っ赤にして俯くリアラに微笑みかけると、ダンテは両手を彼女の脇に入れて支え、ひょいっと持ち上げるとソファの上に座らせる。
「ちょっとシャワー浴びてくるな」
「…じゃあ、飲み物用意しておきます」
「ああ、ありがとな」
くしゃりとリアラの頭を撫でると、ダンテはバスルームへ向かう。
(せっかく声が戻ったんだ、久しぶりに歌でも聴かせてもらうか)
風呂から上がった後のことを考え、ダンテは笑みを深めた。
***
2014.2.26