「…で、悪魔に声を奪われたと」
『はい』
ダンテの言葉に、リアラは頷く。
彼女の話によると、孤児院の建物が見えた辺りでふいに悪魔の気配を感じたらしい。辺りに気を配りながら孤児院の門まで行き、クレアを先に孤児院に入らせた。その直後、背後から悪魔に襲われ、爪で喉を貫かれたらしい。すぐに体制を立て直して反撃したが、容易く避けられ、悪魔は自身の影に溶け込むように消えてしまった。一言、「貴方の声、頂いたわ」とだけ残して。
その言葉にようやく声が出ないことに気づいたが今はどうすることもできないため、クレアの様子を見に行こうと孤児院に足を向けた。リアラの異変に気づいたクレアは心配そうに見つめてきたが、心配ないと身振りで伝え、院長に挨拶をしてその場を後にした。そして事務所に帰ってきた、というわけだ。
「手足が痺れたり、呼吸がしにくいとか、そういうことはないんだな?」
悪魔の中には毒を持つ者も多くいる。そのため、他に何か異変がないかダンテは尋ねたが、見た限り、特に異常はなさそうだった。リアラも頷く。
『はい』
「そうか、ならいい」
ほっと安堵の息をつくダンテに、リアラは申し訳なさそうに俯く。
『すみません、私が未熟なせいでダンテさんに心配をかけさせてしまって…』
「仕方ないさ、リアラに気づかせないくらいなら、よほど強い悪魔なんだろ」
苦笑しながら、ダンテはリアラの頭を撫でてやる。
「悪魔の特徴は覚えてるか?」
『はい。女性の姿をしていて、腕が鳥の羽になっていました。長い黒髪に茶色の目でした』
「それだけわかりゃあ充分だな。明日から依頼受けつつ、地道に探してみるか」
『え、でも私の責任で起こったことですから、私が…』
「一人で探すのは大変だろ?それに、声が出ないんじゃ依頼人と話せない。どうやって依頼を受ける?」
『う…』
確かに、声が出ないのでは依頼主と話をすることができない。かといって今のようにテレパシーを使うこともできない、不審がられてしまう。
俯くリアラの頭をもう一度撫で、ダンテは優しく話しかける。
「ほとんどは俺が行くことになると思うが、どうしてもって時はお前も連れていく。だから、普段は事務所のことを任せてもいいか?」
『…はい…』
気を遣ってそう言ってくれていることがわかるため、リアラは大人しく頷く。
「心配するな、すぐ元に戻る。だから、あまり落ち込むな」
『…はい』
優しく、けれども力強い言葉にリアラはやっと笑みを浮かべる。
『だいぶ遅くなっちゃいましたね。急いでご飯作りますね』
「俺も手伝う」
『ありがとうございます』
礼を言い、リアラは白いコートを脱ぐとダンテとともにキッチンに向かった。