しん…と静まりかえった中、ダンテは呟く。
「助けてくれ、か…」
自分が訪ねなかった九年もの間、いや、一ヶ月前の教団の事件以前にそんなことがあったなんて。
それに。
(あいつのあんな顔、初めて見た…)
ダンテは娘の助けを請うゼクスの顔を思い出す。あれほど苦しそうな、辛そうな顔は初めて見た。
(…いや、初めてではなかったか)
ふと、ダンテは思い出す。
確か前に一度、似たような顔を見たことがある。―九年前、最後に彼と会った日。彼の妻が悪魔に襲われ、死んだと知った、あの日。
あの時の彼の顔は、大切な者を失った絶望と喪失感、そして、なぜ助けてやれなかったのかという苦しみが入りまじった顔だった。
あれほど胸を締め付けられるものはなかった。
(…リアラも、そんな顔をしていたな)
彼だけでなく、彼女もまた、同じ顔をしていた。母親を失った絶望と喪失感。そして、その場に自分もいたのに助けられなかった苦しみ。
彼女の場合、絶望や喪失感よりも助けられなかった苦しみの方が大きかっただろう。
(…これ以上、大切な者を失わせるわけにはいかないな)
自分も大切な者を失った過去がある。自分が幼くて非力なゆえに助けられなかった母親、そして、道を違え、戦わざるをえなかった双子の兄。
「…行くか」
そう一人呟きながら、ダンテはフォルトゥナへ行く準備を始めた。