「…さっき、坊やと閻魔刀について話してただろ。…バージルに、会ったことがあるのか?」


ダンテの言葉に、リアラは目を見開く。


「何で知って…」

「声が聞こえてたからな。リアラと坊やの声しかしなかったし、耳を澄ませば聞こえる」

「そう、ですか…」


確かに室内は静かだったし、大きい声でしゃべったわけではないとはいえ、聞こえやすい状態だったのだろう。


「閻魔刀に鞘があるなんて、あの実験施設にある前の姿を知ってないとわからないことだ。…会ったことが、あるんだな?」


こくりとリアラは頷く。


「はい。…一度だけ、十七年前に会いました」

「十七年前って…」

「…この街に、テメンニグルができる前」


リアラの言葉に、今度はダンテが目を見開く。


「…お前、テメンニグルのことを知ってるのか」

「はい、父様に聞きましたから。それに、あれだけ魔の気配を持った物は、どれだけ離れててもわかります」


そう言うと、リアラは悲しそうに目を細める。


「…どうしても、おじ様の力がほしかったんでしょうか。ダンテさんと戦ってでも、家族で過ごしたこの世界が壊れても」

「リアラ…」

「…力を求める理由はわかります、私も、同じ経験をしたから。ダンテさんもそうでしょう?」

「…ああ」


大切なものを守りたい、だから強くなりたい。そう思うのは、誰でも同じなのではないだろうか。
でも、とリアラは続ける。


「やっぱり、バージルさんには生きていてほしかった…魔界に、行かないでほしかった…」


リアラはぎゅっ、と服の裾を握りしめる。


「あの時、フォルトゥナ城に来た時に止められてれば…。力不足だって、わかってるけど…っ」


ぽろり、と涙が零れ落ちる。言葉で止められなかったとしても、後悔ばかりが頭を占める。


「…リアラ」


声が降ってきたと同時に、リアラの身体が温かなものに包まれる。驚きに目を見開くリアラに、ダンテは優しく言う。


「…そんなに自分を責めるな。あいつは、自分の信じる道を進んだんだ。…後悔はしてないだろうさ」


一旦身体を離すと、ダンテはリアラの目元に溜まった涙を親指で拭う。


「ごめんな。泣かせるつもりはなかったんだが…」

「…っ、ううん。私こそ、すみません…」


ふるふると頭を振って謝るリアラに、ダンテは苦笑する。


「最近、謝ってばっかりだな、リアラは」

「う…」


確かに、あの満月の日以来、謝ってばかりな気がする。もっと、別の気持ちを伝えたいのに。
その時、ふと思い出したことがあって、リアラは顔を上げた。


「あの、ダンテさん」

「ん?」

「今日、買い物の帰りにレディに聞いたんです。ダンテさんが、父様のことを『あいつにとってはたった一人の家族だからな』って言ってたって」


そういえば、リアラが買い物から帰ってきた時に隣にレディがいて、買い物中にたまたま会ったのだと言っていた。きっと、その時にでも話したのだろう。
確かに、そんなことを言ったがそれがどうしたのだろう。
ダンテが首を傾げると、リアラはダンテの目を真っ直ぐに見つめて言う。


「確かに、血の繋がりっていう意味では一人ですよ。でも、私にはもう一人家族がいます」


そう言うと、リアラは微笑む。


「それは、ダンテさんです。血の繋がりがなくったって、ダンテさんは私のお兄ちゃんです」


だから、いつもありがとう。そう言って笑うリアラはまるで花が咲いたかのような笑顔で。


「…っ」


正直、きれいだと思った。こんなきれいな笑顔を見たのは、母以来かもしれない。
反応のないダンテに、リアラは首を傾げる。




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