「…まだ城の地下施設にいる」
「なっ…!」
ゼクスの言葉に、ダンテは絶句する。
「小地獄門は安定してきたとはいえ、閻魔刀はまだ復元できていなかったからな。復元が完了するまで解放する気はない、とあの男に告げられたよ。この娘が使い物にならなくなったら今度はお前を使う、ともな」
今思い出しても憎くてしょうがない、と続けたゼクスはその言葉の通り、『あの男』が憎くてしょうがないのだろう。殺気を放っている。
「だが、あんたが先に解放されたなら、リアラを助けに行けたはずだろう?」
ダンテがそう言うと、ゼクスは唇を噛みしめる。
「…助けたかった、助けたかったさ…!だが、偽物とはいえ、二ヶ月もの間、小地獄門三つに魔力をとられ続けていた私は満身創痍で、解放された直後にリアラを助けに行くことはできなかった…!一ヶ月を経てようやく魔力が元に戻ったくらいだった」
ゼクスの言葉にダンテは目を見開く。彼ほどの悪魔でも、そうなるほど魔力がなくなるとは。
だが、そう思うと魔界と人間界を隔てる地獄門を封印した閻魔刀にはかなりの魔力が秘められているのだと改めて感じた。
「いざ助けに行こうとしたらあの事件が起きて、事件の途中であの青年が閻魔刀を復元させた。目的は果たされたから娘は解放されると思っていたが…現実は違った」
ゼクスは顔を歪める。
「閻魔刀が復元された後、あの男は今度は悪魔を造るために娘を利用した。助けに行ったが、あの男にこいつがどうなってもいいのか、と脅され、引き下がるしかなかった」
「だが、もうあの事件は終わった。あの男だって倒したし、今なら助けられるだろう?」
ダンテの言葉に、ゼクスは首を振る。
「今は、変な奴が城の地下施設に出入りしている。以前そいつを見かけたが、格好から察するに教団の生き残りとみえる」
「教団の生き残り…まだそんな奴がいるのか?」
ゼクスは頷く。
「ああ。そいつが城に出入りするようになってから、城から悪魔が出るようになった。…それと同時に、リアラの気配も弱まっていった」
その言葉を聞き、ダンテは険しい顔をする。
「…つまり、アグナスがいなくなってからも、そいつがリアラを使って悪魔を生み出しているってことか」
「ああ」
ゼクスが再び頷いた次の瞬間、彼の姿が薄くなり始めた。
突然のことに驚き、ダンテは立ち上がる。
「!おい、どうした!?」
「…どうやら、そろそろ限界のようだ」
己の手を見ながら、ゼクスは呟く。
そして、顔を上げてダンテを見やり、言葉を紡いだ。
「今の私では助けてやれない…。あの後、何とか施設に侵入して助けようとしたが、そいつに阻まれてできなかった。何とか娘を守るための結界は張ったが、それもいつまで持たせられるか…」
そういう間にも、ゼクスの姿はどんどん薄れていく。
「おい!」
「頼む…娘を…リアラを、助けてくれ…」
声まで掠れ出した中、ゼクスは告げる。
「フォルトゥナで…待っている…」
その一言を最後に、ゼクスの姿はかき消えた。