「…レイから、全て聞いたんですね」
リアラが小さく口を開いた。ダンテは頷く。
「…ああ」
「…ごめんなさい、隠し通すつもりはなかったんです。せめて心の準備ができるまでは、と…」
そう言い、リアラは目を細める。
「…怖かったんです、こんな不安定な状態でダンテさんの傍にいることも、この姿を見られることも。だからあの時、自分を制御できなくて…」
「ああ、わかってる。…俺に何か言われるんじゃないかって、怖かったんだよな」
「…はい」
こくりとリアラは頷く。
「…私は、母様を守れなかった。父様に『守る』って言ったのに…。日中だからって、少し油断してた自分もいる。でも、何よりも…力の足らない、自分が悔しかった」
「……」
「力を求めるばかりだとただの暴力にしかならないのはわかってる。けど、力を求めずにはいられなかった」
もう少し力があったなら。もっと自分が強かったなら。
「母様が死んだ時に悪魔の力を覚醒させるなんて…皮肉だわ」
「……」
「生きる代わりに、力を覚醒させて、過去の思い出に浸ることも許されなくなった」
どこか遠くを見つめたまま、リアラは続ける。
「昔は、母様とよく月を眺めてた。窓の外の月を眺めてきれいだねって、母様と笑いあって…特に満月が好きで、満月の日は、二人でじっと眺めてた」
でも、それももう叶わない、とリアラは言う。
「満月の日は、月を見なくとも月の影響を受ける。見たら余計に…もう、満月を見て過ごすことなんてできない」
キュッ、とリアラは唇を噛みしめる。泣きたいのを、堪えるかのように。
黙って聞いていたダンテは、リアラに優しく声をかけた。
「…リアラ」
リアラの頭を優しく撫で、もう片方の手で強く握られた彼女の左手をそっと包み込む。目を見開き、自分を見上げるリアラに、ダンテはゆっくりと口を開いた。
「…おばさんは、お前を恨んでなんかいない。ゼクスだって、娘であるお前を助けるために怪我をしてまでお前に近づいたんだ。…誰も、お前を責めちゃいない」
自分を許せない気持ちは充分すぎる程よくわかる。だから。
「ゆっくりでいい…いつか、自分を許してやれ」
「…っ」
ぽろり、リアラの瞳から涙が零れた。静かに静かに流れていく涙は、止まることを知らない。
「…っ、っ…」
声を殺して泣くリアラの頭を、ダンテはずっと撫で続けていた。