「その子は私達と違って、満月の日に高まった魔力をコントロールし切れないの。半分人間ってことも関係しているんでしょうね。それでも、昔に比べたらましになった方だわ」


昔は夜に限らず、一日中その姿だったとレイザードは言う。


「それでも、魔力が高まったせいで魔狼の耳と尾が出てしまうから、満月の日は宿に止まらないで野宿をしてたわ。悪魔に力をぶつけ続けた日もあった」

「……」

「…それに、満月の日が近くなると、毎回その子は必ずフィーリアの夢を見る。…いつの間にか、声を殺すことまで覚えてしまって…」


叫んだ方が、ずっとずっと楽になるのに。そう言って、レイザードは悲しそうに目を細めた。
ずっと黙って話を聞いていたダンテは、ポツリと呟く。


「…リアラがおばさんの夢を見るのと、そのことは何か関係があるのか?」


ダンテの問いにレイザードは一度唇を噛みしめると、重々しく頷いた。


「…あるわ。その子が力を覚醒させた日は、フィーリアが死んだ日だもの」

「おばさんが、死んだ日…?」


目を見開き、ダンテは問い返す。レイザードは無言で頷く。


「…頼む、教えてくれ。おばさんが殺された日、リアラに何があったんだ?」


十年前、リアラに会ったあの日、ミティスの森でさ迷っていた彼女は溢れる魔力を抑えもせず、周りを凍りつかせながら壊れたように『母様』と繰り返していた。
何とか正気に戻し、彼女に話を聞いてわかったのは彼女の目の前でフィーリアが殺されたということ。当時、自分はマレット島から帰ってきたばかりで、バージルを殺した罪の意識に苛まれていたから、お互いに話したとはいえ簡素なもので、そこまで深く聞けなかったのだ。
ダンテの真剣な眼差しを受け、レイザードは大きく息を吐く。


「…本当は、本人に話させるべきなんでしょうけど…それも酷ね」


そう呟き、レイザードは語り始めた。




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