事務所を出て数十分、リアラの気配を感じたダンテは街の隅にある工場に来ていた。
「ここにいるのか…?」
工場の敷地内に入り、ダンテは呟く。見たところ、変わった様子はないようだが…。
そう思ったその時、微かに金属のぶつかるような音が耳に届いた。
…ガキッ…キィン!
音のする方へ顔を向けると、工場の中からその音は聞こえていた。ダンテは急いでそこに向かう。
(リアラ…!)
壊れた扉を蹴破り、工場の中に入ると、柱だけが残る広い部屋に、数十体のスケアクロウがおり、一ヶ所に群がっていた。そして、その隙間から見える白い影。次の瞬間、スケアクロウの群がる中心から吹雪が巻き起こり、スケアクロウ達を吹き飛ばした。
白い影は魔獣化したリアラだった。だが、雰囲気に普段の冷静さは感じられず、有り余る力をぶつけているような荒々しさを感じる。それを表すかのように彼女の身体は水色の魔力を纏っており、それが煙のように揺らめいている。
スケアクロウ達を吹き飛ばしたリアラは尾に魔力を纏わせると、円を描くように走り、勢いをつけて尾を振り下ろした。力任せに出されたその攻撃は抉るようにスケアクロウ達を切り裂き、群れの大半が砂になって消えていった。残りを氷の塊で押し潰す彼女の戦い方は、普段の舞っているような戦い方とは正反対だった。
あまりの豹変ぶりにダンテが呆然と見つめていると、全ての悪魔を倒し終えたリアラはようやく動きを止めた。ポウ…と彼女の身体が淡い光に包まれ、次の瞬間には元の姿に戻っていた。
…いや、元の姿ではなかった。頭には白い毛に覆われた狼の耳を携え、腰の辺りで同じ毛色の尾が揺れている。人間(ひと)で言うなら、半獣―まさにそう呼べる姿だった。
「リアラ…」
ポツリとダンテが呟く。その声が聞こえたのかびくり、と肩を震わせ、リアラがこちらを振り向いた。ダンテの姿を捉えた途端、彼女の目が大きく見開かれる。
「ダンテ、さん…」
震える声で名を呼び、リアラは後ずさる。
「どう、して、ここに…」
ここにいるはずのない、一番見られたくなかった人に見られた。リアラの身体を恐怖が覆う。
―ドクンッ
「―っ!」
突然、息もできない程の衝撃が身体を襲い、胸元を強く掴んでリアラはその場に崩れ落ちる。
「リアラっ!」
ダンテが駆け寄ろうと一歩踏み出すが、それを止めるかのようにリアラが叫んだ。
「来な、いで…!お願い、です、から…!」
思わず足を止めたダンテに、荒く息を吐きながらリアラは続ける。
「もう、誰も…傷つけたく、ないの…!だからお願い、来な、いで…!」
そう告げるリアラからは魔力が溢れ、彼女を中心にビシビシと音をたてて床が凍りついていく。部屋の温度は急激に下がり、春だというのに冬のような寒さだ。
苦しげに告げるリアラを見つめ、ダンテは口を開く。