「…ゼクス、か?」
問われた男性―ゼクスはにこりとほほえんだ。
「久しぶりだな、ダンテ」
ゼクスは音も立てずにダンテに歩み寄る。
ダンテが足を投げ出している机から少し離れたところで、ゼクスは歩みを止めた。
ダンテは机に投げ出していた足を下ろす。
「九年ぶりだな」
「ああ」
「元気にしていたか?」
「まあな」
「…久しぶりに会えて、嬉しいよ」
「…悪かった。あっちに顔も出さないで」
「いや、元気にやっているならそれでいい」
二人はまるで以前からの知り合いのように、たわいもない会話を交わす。 実は、ゼクスはダンテの父・スパーダの古くからの友人で、スパーダとエヴァの元にダンテとバージルが産まれてからもずっと交流を続けていた。 お互いにちょくちょく相手の家に遊びに行っていたため、ダンテとバージルも顔を知っており、ゼクスを「おじさん」と呼んで慕っていた。
エヴァが悪魔に殺されてからはゼクスがダンテを保護してくれていたが、一年ほど経った時、これ以上迷惑はかけられないと思ったダンテはゼクスの前から姿を消した。
それから何度かゼクスの元を訪ねてはいたが、九年前を最後に全く顔を出していなかった。
一ヶ月前の魔剣教団の事件でフォルトゥナに行った時も、会う時間などなかったため、結局会わずにそのまま戻ってきてしまっていたのだ。
「…ところで、わざわざ俺の所に訪ねてくるなんて一体どうしたんだ?」
ダンテはふいに浮かんだ疑問を口にする。
ずっと会っていなかったとはいえ、こうやってゼクスが会いに来ることはほとんどない。あっても、一度きりだ。
それに、ゼクス自身人の姿をとれるのだから、会いにくるならこうやって力の一部を飛ばさずに直接会いにきた方が手間がかからないし、面と向かって話せるというのに。
「それにあんた、娘がいただろう。ここに来るなら、せっかくだからその子も連れてくればよかったじゃねぇか」
ダンテがそう言った途端、ゼクスは悲しい顔をした。
先程とうって代わり、空気が重くなる。その顔を見て、ダンテはゼクスに問いかける。
「…何かあったのか?」
「…ああ」
重々しく頷き、ゼクスは苦しげに言葉を紡いだ。
「…娘を、助けてほしい」