「!」
ダンテは目を見開く。
そこにいたのは、白い狼だった。狼の中では大きい部類に入るであろうその狼は、足先が薄い水色の氷に覆われ、透明な氷でできた鋭い爪を携えている。耳の先や胸元、尾の先も薄い水色の氷に覆われ、白い毛並みが月の光を受けて青く光った。
瑠璃色の目が、ダンテを見上げる。
「お前、魔人化できるようになったのか」
『正確には『魔獣化』、ですけどね。鍛錬して何とかコントロールできるようになったんです』
ダンテの頭にリアラの声が直接響く。その姿ではしゃべることができないようで、テレパシーを使って話しているらしい。
ぐ、と背を伸ばすと、さて、とリアラは辺りを見回す。
『まずはあの悪魔の気配を探さないとですね。少し探ってみるので、待っててもらえますか?』
「ああ」
ダンテが頷いたのを確認すると、リアラは目を閉じ、神経を研ぎ澄ませる。ダンテがその様子を見守っていると、何かを感じ取ったのかピクリ、とリアラの耳が動き、彼女が目を開けた。
「見つかったか?」
『はい、あっちの方にいます。気配が動いてないところからすると、隠れているみたいですね』
頭を動かして方角を指し示すリアラに、ダンテは感心したように呟く。
「大したもんだな」
『この姿になると気配を感じやすくなるんです。範囲も広がるし』
そう答えると、リアラはダンテに向き直る。
『私、この姿になると普段より速く走れるんです。たぶん、あの悪魔にも追いつけると思います』
ただ、とリアラは続ける。
『走りながら攻撃をするのはなかなか難しいんです。もし追いついたとしても、攻撃をかわされてしまったら意味がない。だから、私が走ることに専念しますから、ダンテさんにはあの悪魔を仕留めてほしいんです』
「つまり、お前に乗れと、そういうことか?」
『はい』
ダンテは思案するように顎に手を当てる。
「お前、人を乗せたことはあるのか?」
『ありませんけれど、やってみる価値はあると思います』
リアラの答えにしばし考え込んだダンテはニヤリと笑みを浮かべる。
「…いいぜ、面白そうだ。その考え、乗った」
『ありがとうございます』
目を細めると立ち上がり、リアラはダンテの目の前に移動して乗るように目線で促す。赤いコートを翻しながらダンテが乗ると、感覚を確かめるようにトントン、と何度か地面を踏みしめ、リアラはダンテを見上げる。
『じゃあ行きますね。揺れると思いますから、足をちゃんとかけておいてくださいね』
「ああ」
ダンテが頷くのを確認して、リアラは地を蹴り駆け出した。