翌朝、ダンテは事務所の隅にある小さなガレージからバイクを出して使えるかどうか点検していた。
「燃料もあるし、特に問題はなさそうだな」
ポン、とバイクに手を置き、ダンテは呟く。
レディとトリッシュが帰った後、ダンテはリアラにレディの言った『借金』について説明した。話を聞いているうちに同情するような表情を見せた彼女はレディの借金については何も言わないと言ってくれた。ただ、どちらにしろレディからの仕事を受けてしまったため、依頼には行かなくてはいけない。そこでダンテはリアラを連れていくことにした。せっかく事務所に住んでいるのだから経験を積ませるのもいいと思ったし、何より彼女と行った方が楽しくなると思ったのだ。
リアラの戦い方は自分と違う。属性があるということもあるのだろうが、使う武器から、魔力の使い方まで。もっと見てみたい、と純粋に思ったのだ。
リアラは快く承諾し、二人で行くことに決まった。場所を考えてダンテが選んだ移動手段はバイクだった。依頼場所に行くまで多少距離があるし、電車などと違って自分のペースで行けるからだ。
バイクを玄関の前まで移動すると、ダンテは扉を開けて中にいるリアラに呼びかける。
「リアラ、準備できたぞ」
ソファに座っていたリアラはダンテの声に顔をあげた。その手には彼女の愛銃とクロスがあり、銃の手入れをしていたようだ。
「出れそうか?」
「はい、ちょうど終わったので」
クロスを丁寧に畳みテーブルの上に置くと、愛銃を左足のホルスターに仕舞い、リアラは立ち上がった。ダンテと一緒に事務所から出ると、リアラは目の前に置かれたバイクに気づき、物珍しそうにじっと見つめる。
「初めて間近で見た…」
「乗ったことがないって言ってたもんな、お前」
「はい」
頷くリアラの頭を撫でてやると、ダンテはバイクの上に置いていたヘルメットを彼女に手渡す。
「それ被っとけ。危ないからな」
リアラは被ったことのないヘルメットに少し手間取りつつ何とか被る。そんな彼女の様子にくすりと笑みを漏らすと、先にバイクに乗っていたダンテは後ろの席を叩く。
「ここに座れ」
頷いてダンテの後ろの席に座ると、リアラはダンテを見上げる。
「どっか掴まってないと危ないからな、俺の腰に手回しとけ」
「腰、ですか…?」
「ああ。他に掴まるところないだろ?」
ダンテの言葉にリアラは戸惑うように視線をさ迷わせるが、観念したようにおずおずとダンテの腰に手を回した。初(うぶ)だな、と苦笑しつつ、ダンテはキーを回しエンジンをかける。
「行くぞ」
「はい」
リアラが頷くのを確認してから、ダンテはバイクを走らせ始めた。