▽ 夜闇に浮かぶ華 6
しんと静まり返った暗闇の中、優しい声が響く。
『さあ、起きなさい。愛しい我が子』
その声に導かれるように、巣箱から蜂達が姿を現す。全ての蜂が揃った頃、闇の中から巨大な影が姿を現した。蜂と同じような外見だが、紫色の禍々しい羽を羽ばたかせ、手足には銀色の鋭い爪を携えている。
『だいぶ言うことも聞くようになったし、そろそろ頃合いかしら…今夜からこの子達に動物を襲わせて、その動物を私が殺して喰らう…上手くいったら次は人間ね、こうやって力を溜めていけば、いつかは…』
「その『いつか』は、来ないわよ」
『!?』
突然響いた声に、魔獣は辺りを見回す。ガサリ、と物音がして木の上から一人の女が姿を現した。
『なんだ、お前は!』
「『雪の薔薇』のリアラよ、あなたを捕獲しに来た…と言えばわかるかしら?」
『『雪の薔薇』、だと…?お前、数多の魔獣を捕獲し、ケルベロスの監獄塔に送ってきたというあの魔女か!?』
「その通りよ」
『そうか、お前があの噂の…』
杖の先を魔獣に向け、リアラは告げる。
「これ以上、人間や動物の生活を脅かすことはやめなさい。今すぐ魔界に帰るというのなら、何もしないわ」
『そう言われて素直に帰ると思うか?予想外の出来事だがまあいい…目の前に魔力を持った旨そうな餌がいるんだ、こんな機会はそうない』
ポウ…と魔獣の目が妖しく光る。次の瞬間、蜂達が一斉にリアラの方を向いた。
『行け、あの魔女の足止めをしろ!』
その言葉を合図に、蜂達がリアラに襲いかかる。向かってくる蜂達に動じることなく、リアラは静かに口を開く。
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