▽ 夜闇に浮かぶ華 4
「依頼主の方から許可をもらえるまで、依頼主の家の中には入らないでもらえますか?」
「相手を怖がらせないためか?」
すぐ様返ってきた言葉に、リアラは目を見開く。
「…何でわかったんですか?」
「これまでいろんな魔女と契約してきて何度かお前と同じ仕事をしてる魔女と契約したこともあるからな、人間の反応はおおよそ見当がつくんだよ。この森の近くの町のやつらは魔獣である俺にも友好的だが、大半は魔獣に対して恐怖心を抱いてる。いくら魔女のパートナーだっていっても、自分の目の見える範囲に居てほしくないって奴もいるだろうよ。それでも俺が契約してた魔女の中にはそんなのお構いなしに俺を一緒に人間の家に入れる奴もいたがな」
「そう、ですか…」
契約していた魔女の命令とはいえ、きっと、彼は嫌な思いをしただろう。相手が自分を怖がっているとわかっていて、わざわざその人の近くに行こうとする人なんていない。ましてや、その人の近くに居ようなんて思わないだろう。自分が望まなくとも周りから暗い感情を向けられ続ける辛さを、リアラはよく知っていた。
「…大変、だったんですね」
ポツリと呟かれた言葉にダンテは目を見開く。
「あ、え、偉そうなことを言ってごめんなさい!自分の過去に重ねてしまって…」
ハッと我に返り、慌てて謝ったリアラは片付けしますね!とテーブルの上の皿に手を伸ばす。皿を手元にまとめていると、頭の上に大きな手が乗せられた。
「…ありがとな」
優しい笑みを浮かべ、先程と同じように優しくリアラの頭を撫でたダンテは、手を離すとリビングへと歩き出す。
「それが終わったら配達に行くんだろ、気をつけて行ってこいよ」
「…はい」
返事をしてダンテの後ろ姿を見送ったリアラは、彼の手が置かれていた場所に触れる。まだ、彼の手の温かさが残っているような気がした。
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