▽ 夜闇に浮かぶ華 1
ふわりと漂ういい香りに、ダンテは目を開ける。
『…ん』
むくりと起き上がり、すんすんと鼻を鳴らして匂いの出所を探すと、どうやらキッチンからのようだ。立ち上がり、人の姿に戻るとダンテはキッチンに向かう。
「あ…おはようございます、ダンテさん」
「ああ、おはよう」
足音に気づいたのか、料理をしていたリアラが振り返り、ぎこちない挨拶をする。人の姿にまだ慣れていないのか、この姿でいると彼女は戸惑った様子を見せるので、食事をしたり、風呂に入る以外はなるべく魔獣の姿でいるようにしている。仕事以外ではあまり人に関わらないと言っていたし、家族以外の誰かと一緒に暮らすのは初めてのようだから仕方のないことだろう。悪気があってのことではないのだから。
「今日は何作ってるんだ?」
「ベーコンとスクランブルエッグを挟んだイングリッシュマフィンのサンドイッチとオニオンスープ、それにサラダです」
「美味そうだな」
「ありがとうございます。もう少しでできるので、座って待っててもらえますか?」
「ああ」
頷き、ダンテはキッチンを出る。入口のすぐ近くにある椅子に座り、今日はどうしようか、なんて考えていると、リアラが来てテーブルにできた料理を並べていく。
「飲み物、カフェオレでいいですか?」
「ああ」
「わかりました」
笑顔で頷き、リアラは一度キッチンへ戻る。数分経った後、マグカップを二つ持って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとな」
「どういたしまして」
ダンテにカフェオレの入ったマグカップを渡すと自分の分を持ち、リアラはダンテの向かいの席に座る。
「いただきます」
「いただきます」
食事前の挨拶をして、それを合図に二人は食べ始める。
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