▽ また一つ、君を知る 10
「…昔も、同じようなことがあったな」
『昔?』
「うん。私が20歳くらいの時かな…魔女としてはまだまだ未熟だった私は、薬草のことを教えてもらうためによく母様と一緒にこの森に入ってたの。薬草の名前や効能から、生えている時期や場所、採り方、使い方まで…母様にはいろいろなことを教わったわ」
昔を懐かしんでいるのか、リアラの目が細められる。
「ある日、薬草を採った帰りに時期外れの雨が降ってね…今みたいに大きな木に入って母様と二人で雨宿りをしていたの。雨が止むまでいろんな話をしてね、薬草のことから魔法のこと、その日の晩ご飯のことまで…あまり遅くなると帰りを待ってる父様が心配するね、って話して母様と苦笑し合ったな」
『すぐ帰れたのか?』
「一時的な物だったし、30分くらいで帰れたと思うけど…家に帰ったら父様が出迎えてくれて、身体は冷えてないか、って心配されちゃった」
『家族思いなんだな』
「そうだね。スパーダさんはどんな人なの?」
『親父か?そうだな…あまり怒ることはなかったから怖いっていう印象はないな。どっちかというとお袋の方が怖かったし。静かに俺達を見守ってる感じで、力の使い方を教える時や剣の鍛錬をする時以外はそれ程喋らなかったな』
「そうなんだ。物静かな人なんだね」
『あとは…そうだな、お袋のことは大事にしてる。それはガキの頃から見ててわかったからな。俺らのことも大事にしてるんだろうが』
「そっか、スパーダさんも家族思いな人なんだね。ダンテはスパーダさんに憧れてたりした?」
『ガキの頃はな。俺らの住む魔界は実力主義の世界だ、そんな世界で親父の名前が広まってるってことは強いってことなんだなって子供ながらに思ってたし、そう感じてた。今は憧れってのはないが、この歳になって改めて親父の強さを実感してはいるな』
「そっか。私は今でも父様は憧れの存在だなあ、もちろん母様も。父様のように大切な人を守れるくらい強くなりたいと思ってるし、母様のような優しい魔女になりたいと思ってるよ」
『今でも充分強いし、充分優しいんじゃないか?俺はそう思うぞ』
「ありがとう。でも、父様に比べればまだまだだよ。母様みたいに上手く治癒魔法も使えないしね。軽い切り傷しか治せないし…。薬も本を見ながら基本の物しか作れないもの」
『人には得手不得手ってもんがあるだろ。完璧な人間なんていない、だから何でもできるようにならなくていい。困った時には俺が手を貸してやるから』
自分の心を穏やかに、温かくしてくれる言葉。いつもこうやって手を差し伸べてくれる彼に、感謝してもし足りない。
「…うん。ありがとう、ダンテ。でも、治癒魔法はもう少し使えるようになりたいなあ、ダンテが怪我をした時に少しでも治せるようになりたいから」
『!…そうか、けどあまり無理はするなよ』
「うん。…あ、雨足が弱くなったね、今なら帰れるかも」
『じゃあ、また雨足が強くならないうちに行くか。今度は俺が飛ぶからリアラは背中に乗れよ』
「うん」
笑顔で頷き、リアラはダンテを抱えたまま、雨宿りをしていた木から出て歩き出す。雲は薄れ、少しずつ青空が顔を覗かせ始めていた。
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