▽ また一つ、君を知る 9
『俺は後でいい、お前が先に使え。魔女と言っても身体は人間と同じだろ、俺は魔獣だからそう簡単に風邪なんて引かない』
「え、でも…」
『いいから。早くしないと身体が冷えるぞ』
「…うん、わかった」
ありがとう、一言お礼を言って、リアラはタオルで髪や肩など濡れてしまった部分を拭く。使ったタオルを仕舞い、新しいタオルを取り出すと再びダンテにおいでと手招きする。言われるがままに近寄ってきたダンテを抱き抱え、リアラはタオルを彼の頭に置き、ゆっくりと撫でるように動かし始めた。
「痛くない?」
『ん、大丈夫だ』
なるべく力をかけないように優しく拭いてくれるその手は、幼い頃に同じようにしてくれた母の手を思い出させる。ダンテは心地よさに目を閉じ、尻尾をゆらゆらと揺らす。手足や羽根も丁寧に拭き、よし、とリアラは頷く。
「終わったよ」
『ああ、ありがとな』
「どういたしまして」
ニコッと笑ってリアラはタオルを鞄に仕舞う。顔を上げ、空を見上げるとポツリと呟く。
「…雨、止まないね」
『ああ』
ザアザアと降る雨は弱まることなく、地面を叩きつけるように濡らす。静かに灰色の空を見上げていたリアラがふいに口を開く。
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