▽ また一つ、君を知る 2
『ん、美味い』
「そう、よかった」
キッシュを食べるダンテに笑顔を返し、リアラもキッシュを口にする。
今日の昼食はプチトマトとベーコンのキッシュにサラダ、スモークサーモンとチーズを挟んだサンドイッチだ。今日はその姿でいたい気分なのか、先程リアラの部屋にいた時と同じようにテーブルの上に座り、ダンテは食事をしている。小さな手で器用に料理を掴み食べているその姿は小さいのも相まってかわいらしく見え、私よりもずっと年上なんだけどな、とリアラは苦笑する。
『この後はどうするんだ?』
「うーん、特に決めてないのよね…。今日は仕事は入ってないし、特に足りない物もないから買い物に行く必要もないし」
最近は雨の降る日が多く、魔女も人も外出を控えているのか、薬草が必要になる機会があまりなく、仕事はそれ程入っていない。今の時期にだけ採れる貴重な薬草もあることはあるが種類は少なく、用途もあまりないため、依頼されることは少ない。今日は珍しく晴れているが、午後から雨が降る可能性もある。どうしようか、なんて考えているリアラにダンテが口を開く。
『なあ、リアラ』
「ん、何?」
『午後から薬草を採りに行くことってないのか?』
「え?」
唐突な質問にリアラは目を瞬かせる。
『いや、ふと思ってな。お前が薬草を採りに行く時は決まって朝早くだろ、遅くても午前中には行ってるし。時間を決めて行く理由があるのかと思ってな』
「ああ、そういうことか。そうね、午後に行かない理由はあるわ。薬草の採取って時間がかかるから、午後に行くと帰りが夕方になってしまうことが多くて、魔獣に狙われやすいの。魔獣は夕方から夜に活発に動くでしょう?ダンテ達みたいに昼夜問わず活動している魔獣もいるけれど」
『ああ』
「昔、それでよく魔獣に襲われてね。森のことはある程度知ってるとはいえ、夜はあちらの方が有利だから戦いにくいし…採った薬草を守りながら戦うのは大変だから、今は午後には行かないようにしてるの」
手元が見えにくくなるから効率も悪いしね、とリアラは言う。何となくで聞いたことだったが彼女の過去が垣間見えた気がして、ダンテは申し訳なく思う。けれど、おそらく今謝れば彼女は気にしなくていいよ、と言うだろうし、苦笑しながらもこうして話してくれるのは彼女が話してもいいと思っているからなのだろう。そう思ったダンテは相槌を打つのみに留める。
『そうか』
「うん。そういえば、ダンテは私が薬草を採っているのを見たことがなかったね、気になるのも当たり前だよね」
うーん…としばらく考えこんだ後、リアラは首を傾げて言った。
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