▽ 月の満ちる夜に 5
「もうこんな時間。そろそろお客さんが服を取りに来るわ、お店に戻らなくちゃ」
「なら、私はそろそろお暇させてもらうね。こんな時間までごめんね、キリエ」
「こっちこそごめんね、リアラ。見送りもできなくて…」
「じゃあ、俺が代わりに行ってくるよ」
「本当?ありがとう、お願いね、ネロ」
「ああ」
「じゃあね、キリエ。仕事、がんばって」
「ありがとう、リアラ。気をつけて帰ってね」
「うん」
お店に戻るキリエを見送って、私はネロと一緒に玄関に向かう。玄関から外に出た私は、ここまで見送ってくれたネロの方を振り返る。
「見送りありがとう、ネロ。キリエによろしく伝えておいて」
「ああ。…リアラ」
帰ろうと思ったらふいにネロに呼び止められて、私は振り返る。
「?どうしたの?」
「…本当に、気をつけて帰れよ。今日は満月だからな」
満月。その言葉にああ、と私は頷く。
「わかってる。大丈夫だよ、ネロ」
「…なあ、本当にパートナー持たないのか?」
パートナー。その言葉に、自分の笑顔が凍ったのがわかる。
「お前が誰かに迷惑かけたくないのはわかってる。…けど、今のままじゃお前自身が危ない。わかってるんだろ?自分の生まれが理由で他の奴等に狙われてるって」
わかってる。それは充分にわかってる。私が魔獣と魔女の子だから、狙われるって。
「キリエのあの言葉だって、お前を心配して言った言葉だ。今日は特に危ないから。クレドだって心配してる」
知ってる。キリエもクレドさんも、ネロも、みんな私を心配して言ってくれてるって。
「なあ、リアラ…」
「…ごめん、ネロ。私には無理だよ」
本当に、ごめんね。そう言って、私はかけ出す。ネロの返事も聞かずに。
無理だ、私には無理だ。あの夢の時みたいに誰かを巻き込んで、大切な人を悲しませてしまうなら。誰かを傷つけてしまうなら。自分の身は自分で守る。死ぬ時は死ぬ時だ。
両手で杖をぎゅっと握りしめて、私は街の出口まで走った。
prev /
next