▽ 結ぶのは、一人だけ 14
「…十日だったな」
「ッ!?アアアアッ!!?」
手足に感じた激痛に男は耳を塞ぎたくような悲鳴を上げる。ーダンテが魔力で生み出した赤く鋭い針が、男の手足に穿たれたのだ。苦しむ男をダンテは冷たい目で見下ろす。
「痛いか?痛いだろうな、だがそれだけじゃ終わらないぜ。それは俺特製の毒が入った針だ。効果は身体の痺れ、軽い呼吸困難、ってところか。遅延性の毒だから、後からゆっくりじっくり効いてくる…持続期間はそうだな、十日だ」
「…ッ!」
十日。それは、自分があの魔女を狙って追い回していた日数。目を見開く男に、ダンテは顔を近づける。
「…怖いか?だがな、お前のせいであいつも同じくらいに悩んで苦しい思いをしたんだ。自分のことはあまり気にしないのに、迷惑がかかるって周りにばかり気を遣って…ただでさえあいつは周りのことばかり気にかけるんだ、これ以上余計な気を遣わせるんじゃねえよ」
「…そんなに大切か?あの魔女が」
「…お前に答える義理はないが、それなりにな」
ポキ、と指を鳴らし、とりあえず、とダンテは続ける。
「しばらくここで寝てな。二度と俺達の前に姿を現すな」
「グ…ッ」
男の顔面に強烈な一発をお見舞いする。低く呻いて気絶した男から身体を離し、何事もなかったかのようにダンテは背を向ける。
「リアラ」
「ダンテ!」
死神に肩を叩かれ、ようやく目を開けることができたリアラは自分を呼ぶ声とこちらに近づく姿に安堵の表情を見せて駆け寄る。
「あっ…」
「おっと」
だが、早々疲れは取れないのか、足がもつれ、転びかける。素早く反応したダンテが腕を伸ばして受け止めてくれたおかげで怪我は免れた。
「大丈夫か?」
「う、うん。ごめんなさい…」
「気にするな。ただ、まだ魔力は戻ってないんだからあまり無理はするなよ」
「うん」
こくりと頷くと、ダンテの腕を支えにして立ち上がり、リアラはダンテと死神を交互に見やる。
「ダンテ、助けに来てくれてありがとう。死神さんも私のために、ありがとうございます」
「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう、助かった」
「何、気にしなくていい。お前のような魔女をあんな奴に渡すのは惜しいからな、少しばかり手を貸しただけだ」
笑って返し、死神は踵を返す。
「私はルティアの屋敷に戻る。彼奴もお前のことを心配しているだろうからな、無事だと伝えておく。お前達も帰って休め、彼奴に心配させた詫びをしたいなら、体調が戻ってからにすればいい。杖や銃は後でホムンクルスに持っていかせよう」
「すみません、ありがとうございます」
「ではな」
トッ、と地を蹴ると、死神はそのまま空の彼方へ飛び去って行った。それを見送っていたリアラは肩に置かれた手に気づき、上を見上げる。
「俺達も帰るか」
「…うん」
ダンテの優しい笑顔に目を細め、リアラは笑って頷いた。
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