▽ 月の満ちる夜に 4
「リアラ、考えごと?」
「…え?」
キリエの言葉に顔を上げる。
今日一日の仕事を終えて、私は最後の配達先であるキリエの家で彼女手作りのシフォンケーキをお供にお茶を頂いていた。キリエとたわいもない会話をしながらも、今朝の夢が頭から離れなくて、つい考え込んでしまっていたらしい。向かい側に座っていたキリエは心配そうな顔をしていた。
「難しい顔をしていたわ。何か悩みごとがあるなら聞くけれど…」
「ああ、えっと…」
悩みごと、って程ではないけれど、気になっているのは事実だ。キリエになら話してもいいかな、私はそう思って口を開いた。
「心配させてごめんね、実は…」
昔、小さい頃にあった出来事と、それを今朝、夢に見たことを話せば、そうなの…とキリエは頷く。
「そういえば、小さい頃にそういうことがあったって言ってたわね。…予知夢、なのかしら?」
「それはないと思う。予知夢は千年以上生きた魔女じゃないと見れないわ。私はまだ二百年しか生きていないし、それにそんな能力はない」
「そうね。…でも、きっと意味はあると思うわ」
「…うん」
夢は深層を映す鏡。昔、母様がそう教えてくれた。ここ何十年と夢は見ていなかったのだけれど。キリエの言う通り、きっと意味があるのだろう。
「リアラ、頼まれてた銃の点検終わったぞ」
聞き慣れた声がして、リビングの入口からネロが顔を出した。その手には点検を頼んでいた私の銃があって、私は椅子から立ち上がる。
「ありがとう、ネロ。どこかおかしいところとかなかった?」
「特に問題はなかったぜ。ただ、傷が多かったから塞いでおいた」
「本当?細かいところまでありがとう。何かお礼…」
「いいよ、金取るためにやってるわけじゃないから。それに、リアラにはいつも弾に使う火薬の材料もらってるし」
「いいの?」
「ああ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。…ふふ、だいぶ集中してたんだね、耳出てるよ」
「げ、マジかよ。…はあ、気をつけないと」
「ここにいる人は誰も気にしないから、いいと思うよ?ね、キリエ」
「ええ」
キリエと二人でくすくすと笑い合う。ネロは頭をガシガシ掻きながら、そうは言ってもなあ…と呟く。
時計を見たキリエがあ、と声を上げた。
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