▽ 結ぶのは、一人だけ 9
「…ん…」
冷たい感触に、リアラは目を開ける。
「ここ、は…」
「あ、起きた?」
聞こえた声に頭が覚醒する。はっきりとした視界には、あの男が笑いながら立っていた。
「っ、あなた…!…っ!」
身を乗り出そうとしたが、何かに阻まれているのか首がグッと引っ張られた。ガチャ、と金属の擦れる音が響いたのから察するに、首に何かを付けられているらしい。視線を下ろすと手首にも金属の鎖が巻かれていて、いつの間にか服は中に着ている白いワンピースだけになっていた。肩にかかる髪に、髪留めもないのだとわかる。
「ああ、上に着てた服なら破って置いてきたよ、杖とかと一緒にね」
「…っ、あなた、一体何がしたいの!?」
「何が?言ったろ、君を俺の物にするって」
こちらに向かって歩いてきた男は屈むとリアラの顎を持ち上げ、上向かせる。
「今、君はだいぶ弱ってるみたいだし、このままここに縛りつけておけばいつかは折れて頷いてくれるだろうからね。本当はこんなことしたくないけど、なかなか頷いてくれないからこうなるんだよ?」
「そんなのあなたの勝手でしょう!?どうなろうとも、私は頷かないわよ!!」
「君、今の自分の状況わかってる?」
「っ、げほっ…」
首に繋がれた鎖を引かれ、リアラは咳き込む。
「死にたいなら殺してあげてもいいけど、それは俺が飽きたら。大人しくしてないと、これ以上どうなっても知らないよ?」
俺は君に何でもすることができるんだから、そう言って男はリアラの肩を撫でる。
「…っ!」
「それとも、そんなにあのダンテって奴が大切?何回もパートナーを変えてるような奴なのに?」
男の言葉に、リアラは動きを止める。
「興味のある魔女に近寄って、飽きたら離れていって。今まで数え切れない程パートナーを変えてきた。そんな気まぐれな奴が、そんなに大切?君も、いつか飽きたら捨てられちゃうかもしれないのに?」
「っ、ダンテを悪く言わないで!!」
カッと頭に血が昇り、リアラは叫ぶ。
「あなたにダンテの何がわかるの?確かに、今までに何人もの魔女と契約を結んできたのは知っているわ、彼自身から聞いているから。けれど、彼はあなたに罵られるような人じゃないわ。私と関わったっていいことなんてないのに、彼は私と契約してくれた。私のパートナーになってくれた。あんな優しい人を、あなたが罵倒する権利はない!」
それに、とリアラは続ける。
「例え、いつか彼に飽きられて契約を切られるんだとしても、私は後悔しない。私に彼を留める権利なんてない、むしろ、こんな私と契約してくれてありがとうって感謝するところだわ。一人になったって構わない。けれど、彼がパートナーでいてくれるのなら、私は他の人と契約は結ばない。私が契約を結ぶのは、一人だけよ」
「この…言わせておけば…!」
男の目に怒りと狂気の色が浮かぶ。リアラの首を掴み、男は拳を振り上げる。
「一発殴れば自分の状況もわかるだろう!少しは大人しくしてろ!」
男の拳がリアラの頬に迫った、その時。
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