▽ 結ぶのは、一人だけ 8
「ルティア、いるか!?」
すっかり空が闇に包まれた頃、ルティアの住む屋敷の玄関に響いた、一つの声。驚いたルティアが玄関に駆けつけると、そこには扉に手をかけ、息を切らせたダンテの姿。
「ダンテ!?どうしたの、こんな時間に…」
「…っ、リアラはいるか!?」
「え、リアラ?リアラならもう夕方前には帰ったけど…」
「ここにもいないのか…くそっ…!」
ダンテは力任せに扉を叩く。バンッという壊れんばかりに大きな音が玄関に響く。ダンテの言葉にルティアは耳を疑いたくなる。
「ちょっと待って、ここにもいないって、リアラは…?」
「…帰ってきてない。あまりに帰りが遅いから心配になって今日あいつが行った配達先を全部回ってきたが、どこにもいなかった。ここにもいないのなら…」
「連れ去られた、か?」
続いた声に、ルティアとダンテは顔を上げる。
「死神さん、バージル!」
「玄関が騒がしかったのと覚えのある気配だったからな、只事ではないと思ったが…やはりな」
「……」
腕を組み、ため息をつく死神と、黙ってダンテを見るバージル。死神は二人に歩み寄ると、ダンテに問いかけた。
「それで、連れ去ったのは件の魔獣で間違いないのか?」
「…ああ。こんなことをするのはあいつぐらいしかいない。リアラをパートナーにしたがってたからな、行く先々にも現れてたらしいし…自分に靡かなくて逆恨みした可能性はある」
「気配は感じないのか?リアラと契約してるのだから、他より感じやすいはずだろう?」
「…普段ならな。今のあいつは結界による魔力の消費で弱ってる。気配も弱くなってるし、その上あいつのいる場所に結界でも張られてたら…」
「ふむ。余計分かり辛い、というわけか」
「ああ」
顎に手を置き、考えこんでいた死神はなら、と口を開く。
「私も手伝ってやろう。あの娘のことは気に入っているし、ルティアの友人でもあるしな」
「…いいのか?」
「ああ。そんな奴と契約させるには惜しい魔女だからな」
「…悪い、頼む」
「何、気にするな。なら行くとするか」
「ああ」
「待って、私も行く!」
屋敷を出ていこうとする二人にルティアが口を開く。
「お前はここにいろ。あいつがここにくる可能性はないだろうが…万が一、ってこともあるからな」
「何、私と此奴がいれば事足りる。バージル、後は任せたぞ」
「…ああ」
「あ…」
ルティアが手を伸ばすも、二人は屋敷の外へ出ていってしまった。玄関の扉がバタン、と音を立てて閉まる。俯き、胸元をぎゅっと掴むルティアの肩にバージルの手が置かれる。
「バージル…」
「…今は彼奴の言う通りにしてやれ。彼奴は彼奴なりに責任を感じているんだろう。…彼奴が誰かに頭を下げるなんて、家族以外には初めて見たからな」
「……」
心配そうに、ルティアは玄関の扉を見つめた。
prev /
next