▽ 結ぶのは、一人だけ 7
心地いい風が頬を撫でていく。家路を飛ぶリアラは、どこかすっきりとした顔をしていた。
(ルティアに話してよかった)
彼女に話したことで沈んでいた気持ちが少し軽くなったような気がする。ふと、リアラはルティアの言葉を思い出す。
(私を誰かが心配してくれてる、それは悪いことじゃない、か…)
『迷惑』じゃなくて『心配』なのだと、彼女はそう言ってくれた。それは自分が誰かを心配するのと同じことなのだと、今更ながらに気づかせてくれた。
(今回の件が落ち着いたら、ルティアにお礼をしに行こう。何がいいかな…そうだ、ルティアの好きなローズヒップの紅茶と好きなお菓子を作って持っていこう)
彼女の喜ぶ顔を思い浮かべて、リアラは小さく笑みを浮かべる。ルティアの家を出る時にはまだ青空だった空は、地平線からゆっくりと赤く染まり始めていた。
(もうこんな時間…早く帰らなきゃ。ダンテが心配しちゃう)
家で帰りを待っているであろう彼の姿を思い浮かべ、リアラは飛ぶ速度を少し上げる。
(家に帰ったら、ダンテに心配かけてごめんなさいって謝ろう。それで、今回の件でのお礼をしよう。大したことはできないけど、晩ご飯のおかずを一品増やすことくらいはできるし…ダンテのために美味しいご飯、たくさん作ろう!)
そう、リアラが決めた時だった。
『本当、君も頑固だよねー』
ゴウッ
「!」
静かな世界に突如として声が響き、次の瞬間には強い風がリアラに吹き付けた。咄嗟に杖を強く掴んでその場を凌ぐ。
「くっ…!」
『早く俺のパートナーになっちゃえばいいのに君がなかなか頷かないから、こういう手段を取らないといけないんだよ』
「っ、そんなのあなたの都合でしょう!私は絶対、あなたと契約しないわ!」
『っ…今のはさすがにイラついたよ。こうなったら力ずくで君を俺の物にしてやるよ』
声がそう告げた途端、風が一層強さを増し、リアラを取り囲むように吹き荒れ始めた。
「っ…!」
身を屈め、杖から落ちないように腕に力を込めるが、疲労している身体では力が入らず、手が震える。どうするか必死に思考を巡らせていたリアラだったが、突然、視界が霞んだ。
「っ!?」
『あ、効いてきた?さっき、風に強烈な眠気を誘う薬の粉を紛れこませておいたんだ。身体に力が入らなくなってきたんじゃない?』
「っ…!」
目を開けているのが辛い。前に倒れそうになる身体を何とか抑えていたリアラだが、突如、後ろから吹いた強い風に背を押された。
ゴウッ
「…っ!」
ガクッと身体が前に倒れ、手が杖から離れる。滑るように落ちた身体は、地面へ向かって落下していく。
「…っ、…」
身体に力が入らない。杖を手元に呼ぼうにも、眠りに誘われた頭は上手く働かない。
ああ、私、死ぬんだ。
ただそれだけを思って、リアラの意識は闇に沈んだ。
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