▽ 結ぶのは、一人だけ 5
「心配された。大丈夫か、って。あの魔獣、町にも現れて町の人達に私のことを聞いて回ってるみたいだから、何か起こらないように町にも結界を張ろうと思ったんだけど、ダンテに止められて。これ以上無理をするな、って。あいつの気配は覚えてるから、もし町に行ったようなら俺が様子を見てきてやるから、って」
普段から何かと気遣ってくれる彼だが、今回はことさら心配されてしまって。自分に負担がかからないように、気を遣ってくれている。
「…私、昔から誰かに迷惑をかけることしかできないのね」
ポツリと呟かれた言葉には寂しさと悲しさが滲む。その声音は、ルティアに初めてリアラと会った日、自分とはあまり関わらない方がいいと言ったあの時の彼女の声音を思い出させた。
けれど。
「…それは、迷惑って言わないわ」
「…え?」
静かに告げられた言葉に、リアラは顔を上げる。
「迷惑っていうのは、そうされることで自分が困ったり、嫌になったりすることでしょう?そんな人に自分から近づく人はいないし、むしろ避けると思うわ。けどね…」
一呼吸置き、ルティアはリアラを真っ直ぐに見つめる。
「今、リアラの周りにいる人はみんな、リアラを気遣って側にいてくれる人達よ。迷惑だと思ってる人にそんなことをするかしら?」
「……」
「いつもリアラがみんなを気遣うから、優しくするから、こうやってリアラが困ってる時にはみんな、その優しさを返してくれるのよ。キリエだって、ネロだって、クレドだって、町の人達だって。もちろん私もだし、ダンテだってそうなんじゃないの?」
「それは、みんなが優しいから…」
「リアラはそう言うけど、私はリアラも充分優しいと思うわ。リアラは自分より周りの人のことを優先するから、自分のことには気づいていないだろうけど」
「……」
「ね、だから、リアラは誰かに迷惑をかけているんじゃなくて、リアラを誰かが心配してくれてるの。それは、悪いことじゃないのよ」
「悪いことじゃ、ない…」
「だから、あまり思いつめないで。悩みがあるならいくらでも聞くし、相談に乗るから。リアラが苦しんでるのを見ると私も苦しいの」
「ルティア…」
自分のことのように苦しそうな顔をするルティアに、リアラは一度目を閉じ、次には穏やかな笑顔を見せた。
「わかった。今度からちゃんと相談するね。心配してくれてありがとう」
「…うん!」
ようやく見れたリアラの笑顔に、ルティアは嬉しそうに頷く。
prev /
next