▽ 結ぶのは、一人だけ 2
「じゃあね、キリエ、ネロ」
「ああ」
「ええ、また今度」
見送ってくれる二人に手を振り、リアラは街の出口に向かう。
「えっと、今度は…」
次に向かう配達先を思い出す。次は少し離れた山に住む、先輩である魔女のところだ。街の出口に着いたリアラは、見覚えのある後ろ姿に気づく。
(あれは…)
昨日の出来事を思い出し、顔をしかめる。早く通り過ぎてしまおうと早足で歩くリアラだったが、壁に寄りかかって待っていた男に気づかれてしまった。
「あ、やっと出てきた」
「…何か御用でも?」
「もちろん、俺のパートナーになってもらうために話に来たんだよ」
「昨日、お断りしたはずですが」
「諦めない、って俺は言ったはずだよ?それに、勝手にしたら、って言ったのは君だよ」
「…だとしても、仕事中にまで来ないでくれますか」
「そう言われても、俺には君が仕事してる時間までわからないし」
「時間がわからなくても、格好を見ればわかるでしょう。それに、ここで待っていたということは私の気配を感じて来たんでしょう?行く先々にまで現れないでくれますか?」
「おや、鋭いね」
「私、仕事中なんです。あなたとお話ししている時間はありません」
話を断ち切るように告げると、リアラは足早に杖に乗って空へ飛び立つ。
「…ついてこないでくれますか?」
『だって、まだ話は終わってないし』
魔獣の姿に戻って後ろについてきた男はそう返す。濃い黄色に黒い縞を持つハイエナの姿をした魔獣の背には翼がなく、なのに空を飛ぶように駆けている。
「翼がないのに飛んでいるということは…あなた、風の属性ね?」
『ご名答ー。正確には見えないだけで風の翼があるけどね』
君、やっぱすごいねー、と男はのんびりとした声で言う。一方でリアラは淡々とした声で言う。
「各属性の特性がわかっていれば誰だってわかるわ。そんなことで褒めないでくれる?」
『手厳しいなあ』
「…とにかく、もうついてこないでくれる?仕事中にまでついてこられたら迷惑だし、何より、時間に遅れたら依頼主に迷惑がかかっちゃうもの」
男から離れようと、リアラは杖に魔法をかけ、速度を上げて目的地へ向かう。だが、男も速度を上げてすぐに追いつき、リアラの横に並んだ。
『属性の特性がわかってるなら、風属性が一番スピードが早いって知ってるはずだけど?』
「…気持ち的なものだってあるでしょう」
『何、照れてるの?かわいいな』
「……」
何を言っても無駄な気がして、リアラはため息をつく。
結局、配達先の魔女の家に着くまでリアラは男に追い回されたのだった。
prev /
next